| 2002年5月10日(金) |
日本と中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間には、さまざまな懸案があるが、また難題が加わった。 中国・瀋陽市にある日本総領事館に、北朝鮮を脱出した住民五人が、亡命を求めて駆け込んだ。二人は総領事館の建物内まで入ったが、警備していた中国の武装警官が、日本側の同意を得ることなく館内まで追いかけて取り押さえ、連行していった。 総領事館は、国際条約で治外法権が認められている、いわば立ち入り禁止区域。外務省は、重大な主権侵害行為として抗議するとともに、五人の引き渡しなどを求めた。当然の要求だ。 日中関係は、今秋の国交回復三十周年を前に、東シナ海で沈没した北朝鮮の工作船とみられる不審船の調査問題、小泉首相の靖国神社参拝問題などでぎくしゃくしているが、政府は、今回の事件では、亡命申請者を救う人道的見地から、冷静かつ毅然(きぜん)とした態度で、主張を貫くべきだ。 抗議に対し、中国側は、条約違反ではない、と反論している。抗議と反論の連鎖が長期化すれば、日中関係に悪影響を及ぼす懸念もある。だが、あいまい決着に終わらせれば、国内外から厳しい批判を浴びるだろう。 外務省は、機密費やプール金問題、田中真紀子氏の外相更迭、鈴木宗男衆院議員との癒着など不祥事やトラブルが続発し、国民の信頼を損なった。今回の事件のかじ取りは難しそうだが、国民の信頼を取り戻す意味で、腕の見せどころだ。 五人は、北京の国連難民高等弁務官事務所に昨年駆け込み、韓国に亡命した北朝鮮住民の親族。一九九八年に中国に脱出して日本亡命の機会をうかがい、命懸けで総領事館への突入を図ったという。 男性二人は、警備の武装警官を振り切り、館内の査証(ビザ)申請窓口の待合室まで逃げ込んだ。幼児を含む女性三人も、一時は正門から領事館敷地内に入ったあと引き戻され、鉄製の門にしがみついて抵抗したが、いずれも連行、拘束された。 政府は、無断で総領事館に入った武装警官が連行した男性二人の引き渡しと、正門で取り押さえられた女性三人を現場に連れ戻すよう求めている。 ただ、領事館側の対応がいただけない。騒ぎに気づいて正門に駆けつけたものの、警官を制止することはなく、助けを求める女性を放置した。館内に入った男性から事情聴取したいと主張したようだが、強い抗議はせず、結果的に連行を許してしまった。 北京の日本大使館への一報では、武装警官が館内に入った事実は報告されていない。北朝鮮住民が館内に駆け込んだとの情報が入った大使館側が再報告を求め、ようやく事件の重大性が判明した、との報道もある。 複数の北朝鮮住民が、日本の在外公館に亡命を求めて駆け込んだのは初めて。事件当時、総領事らは中国機墜落事故の対応で大連の現場に出向き館内は手薄、という事情もあったようだ。 だからといって、領事館側のお粗末な対応を認めることはできない。政府部内からも、緊張感に欠ける対応、との批判が上がっている。亡命者保護も領事館の職責の一つ。外交官の人権感覚が問われていることを銘記すべきだろう。 瀋陽では今回の事件のほか、米総領事館に八日二人、九日一人の北朝鮮住民が駆け込んでいる。駆け込みは、非政府組織の支援を受けて組織的に行われているといわれ、警備の厳しい北京を避け、地方にある外国公館を狙う今回のようなケースが増える恐れがある。 政府、外務省は、在外公館への亡命申請にどう対処するか、早急に詰める必要がある。 |