六ケ所村
  • 戸鎖そば

  •  六ケ所村と東奥日報社は9日、地域の食材にスポットを当てるイベント「食の味力発見in六ケ所村」を同村の大石総合運動公園で開いた。テーマは「戸鎖そば」。同村の戸鎖地区で収穫されたソバを使った「戸鎖そば」を先着200人に振る舞った。
手作りの味 地域の絆に
  • 写真「そばを作ったり、イベントを開くことができるのも住民が協力し合っているから」。夫盛雄さんや孫たちに見守られてそばを打つ木村さん(右)
  • これが味力

    水車小屋

    写真 懐かしい景観が隠し味-。ソバ畑近くに、元自治会長の高田直治さんら住民が間伐材などを持ち寄り、集落のシンボルとして水車小屋を建設した。最初は設計図もなかったが、2007年に2年がかりで完成。「新そばまつり」会場の拠点となっている。集落では、田植えなどで一時的に人手を貸し合うことを「いっこ」と言うことから「いっこ庵」と名付けられた。梁には協力者の名前が飾られている。

 先端産業で知られる村でも、素朴で味わい深い手打ちそばが、地域の絆につながっている。そばによる地域おこしについて「集落の人が機械や職人技など、できることを提供し合っている。縁の下の力持ちがたくさんいるんです」。孫や夫に見守られ、工房でそば打ちを披露してくれた木村せつ子さん(64)が繰り返した。

 太平洋に面し、下北半島の南部に位置する六ケ所村。村最大の鷹架(たかほこ)沼の西側に広がる戸鎖集落の水利組合が2004年から、減反対策でソバを作付けしている。08年から毎年秋には、農家や住民有志が自らそばを打つ「新そばまつり」を自治会と開催。村内外から大勢の家族連れなどが訪れる恒例イベントとして定着した。

 「一つやったら、また一つ勉強。最初から高い目標を掲げていたわけではないのです」と語るのは、元組合長でせつ子さんの夫の盛雄さん(66)。現在、戸鎖手打ちそば愛好会長を務めている。

 地道な取り組みが続いた。作付け1年目は、水田だったため水はけが悪く生育が不調だった。翌年軌道に乗ると、今度はそばをひく石臼を備えた水車小屋の建設に着手した。さらに「多くの人にそばを食べてほしい」と、組合員がそば打ち技術の習得に挑戦。本紙記事で知った佐藤重一さん(東北町、県そば研究会長)のそば打ち道場で修業を積み、まつり開催に至った。地元に伝わる打ち方では、そばが切れやすかったという。

 戸鎖手打ちそば愛好会は、組合員に限らず誰でも気軽に楽しめるようにと発足した。会員の一人、主婦久保さえ子さん(61)は「そばが好きで入会しました。水加減が一番難しいですが楽しいです」と話す。地域のよりどころだった戸鎖小が少子化で09年度に閉校する前、親子のそば打ち体験教室も開かれた。

 戸鎖地区周辺では05年度、室ノ久保中も閉校。集落で、そばによる地域おこしの情熱が高まっていった背景には、地域衰退に対する危機感があった。

 ただ、気負いだけでなく遊び心もある。「これからもマイペースで活動を続けていきたい」と盛雄さん。地域の絆が深まるのを願いつつ、素朴な笑みを浮かべた。

来場者の声
  1. 写真

    そば打ち 今では趣味

    戸鎖手打ちそば愛好会
    高田たい子さん(55)(左)
    高田愛子さん(60)

     自分でそばを打って食べてみたくて、愛好会に入会しました。今では、そば打ちが趣味になっていますよ(たい子さん)。みんなと一緒に集まるのが好きで、入会しました。イベントでの出店が楽しい。おいしいので、ぜひ食べに来てほしいです(愛子さん)。
  2. 写真

    コシ、のどごしが抜群

    青森市堤町
    新井 友樹さん(44)

     今日は、夫婦で青森市から来ました。そばが大好きで、おいしいそばがあると聞けば県内各地を巡って食べ歩いています。地元食材を取り入れた戸鎖そばがどんな味なのか、とても楽しみでした。コシがあってのどごしがとてもいいですね。おいしいです。
  3. 写真

    だしのおいしさ格別

    三沢市古間木3丁目
    今村幸子さん(63)望玖ちゃん(3)

     麺類が好きで、戸鎖そばは以前から食べたかった。だしのうまさが全然違うんですね。あっさりした味わいは、このそばにぴったり。かき揚げもいい付け合わせ。機会があればまたぜひ食べてみたい(幸子さん)。おそばが好き。おいしい(望玖ちゃん)。
六ケ所村の戸鎖そばについて聞きました
  • 久保勝廣さん(戸鎖前田水利組合長)

    <くぼ・かつひろ 1950年、六ケ所村生まれ。村役場を公営企業部門の理事で定年退職後、村商工会事務局長を務めた。現在、風力発電を手がける地元企業に勤務。2014年より現職>

  1. フクロウくん

    ●作付けのきっかけは?

    有識者

     -太平洋に面した六ケ所村は夏でもヤマセが吹き込むことがあり、気候は比較的冷涼。そのため冷害に強いソバが地域に根付いた。そばは現在も結婚式など祝い事で食べられているが、ソバ畑の光景は、食糧事情の改善を背景に、徐々に消えていったという。

     「戸鎖前田水利組合では2004年、耕作放棄防止に取り組む集落を対象とした『中山間地域等直接支払制度』を活用して、ソバの作付けを始めました。減反政策で米を作らなくなりましたが、せっかく整備した水田を放置しておくのはもったいないからです。ソバは7月末に蒔いて10月には収穫できるため、栽培期間が短いのが魅力。草取りも農薬散布もしていません。さらに、8月末にはソバ畑に、白いじゅうたんのように花が咲くので景観作物にもなります。ソバを蒔くには、水田に肥料を蒔く農業機械を活用しています。組合員は現在37人。ソバを4.5ヘクタール作付けしています」

  2. フクロウくん

    ●そばの特長は?

    識者

     -「戸鎖手打ちそば愛好会」は現在、60代を中心とした住民有志13人で構成している。

     「戸鎖そばは、ソバを作付けした農家らが自ら打って、食べさせるのが特長。つまり、農家が休耕田にソバの種を蒔いて収穫するだけでなく、乾燥して粉にしてそばも打っているのです。栽培から販売までを一貫して手がける『6次産業』のようなものですね。作付けしている品種は『階上早生』と、北海道で幻のそばと人気が高い『ぼたんそば』。さらに今年は、まだ試食していませんが、上北地域県民局が勧める『にじゆたか』も作付けする予定です」

  3. フクロウくん

    ●今後の課題は?

    識者

     -戸鎖そばの常設店舗はなく、愛好会が春の「たのしむべ!フェスティバル」や秋の「新そばまつり」「産業まつり」に出店したり、村外のイベントに参加したりして、そば好きを楽しませている。活動はボランティア。働き盛りの世代をどう巻き込むかが課題。

     「そば作りを通じて住民同士のふれ合いが増えたと思います。これからは、村を訪れた人が戸鎖でそばを食べるだけでなく、村内で一日中楽しんで満足して帰ってくれるよう、まだ手探りですが、中身を濃くするため、さまざま工夫していきたいです」