2010年3月4日(木) 東奥日報  

田邊優貴子の南極だより

■ 地球の時間と人間の時間

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ラングホブデ露岩域の夕暮れ
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赤く染まった山が海の鏡に映る深夜の光
 南極に到着して約2カ月。昭和基地周辺の沿岸での野外調査はあすで最後になります。ホッとしている半面、終わってしまう寂しさも感じています。

 数日前、スカルブスネスでの野外調査が終わり、南極観測船「しらせ」にいったん戻った際、体重計にのってみました。すると、体重はほとんど変化していませんでしたが、体脂肪率が10%を切っていました。長期にわたる野外調査の過酷さを物語っているのかもしれません。

 このごろは夜10時を過ぎるとすっかり太陽は沈むようになり、山々も海も空も赤く染まります。久しぶりに太陽が沈んだころは、夜の暗がりに恐怖を感じましたが、今ではその暗い夜にすっかり慣れてきました。  暗い時間があるとなんだか心が落ち着きます。太陽が沈むようになったおかげで、昼夜の気温差がそれほどなかった白夜の間とは違い、夜の気温がどんどん低くなってきました。

 夏の暖かさで解けた海も、キンッと音を立てて一瞬にして凍り始めます。氷が割れる音は豪快で力強さを感じますが、海が凍る音は静かながらも甲高く強い力を感じます。

 雲一つ無い空、風の無い夜、低くなった太陽に照らされた真っ赤な壁のような山が、解けた海の鏡に映るのは、野外で過ごした2カ月間の中でほんの数分間の出来事でした。

 恐らく1年間過ごしても、こんな出来事は同じように数分間しか無いのでしょう。いえ、きっと見ることさえできない年も多々あるのだと思います。そんなあまりにもすべてが最高のタイミングの貴重な瞬間に、自分が今その場に立って出会えたことがすさまじい力で心に入り迫ってきました。

 とにかく心が強く震えたのです。南極にいると、あまりにも遠く長い地球の時間を感じることができます。それは私が把握できるようなスケールの時間では決してないのですが、その悠久の時間があるからこそ、今この瞬間というものを強く感じることができるのかもしれません。

(2010年2月10日 ラングホブデにて)




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