2004年9月3日(金) 東奥日報 連載

縄文の華/漆−是川遺跡をめぐって

■ (3)世界最古/北海道で9000年前の遺物

 「まさか、何かの間違いではないか」

 二〇〇一(平成十三)年三月、北海道・南茅部町埋蔵文化財調査室の阿部千春室長は、米国の研究機関から届いた報告を見て目を疑った。同町の垣ノ島(かきのしま)B遺跡から〇〇年八月に出土した漆製品の年代測定結果が「九千年前」と記されていたからだ。

 国内最古といわれる石川県・三引(みびき)遺跡の漆塗り櫛(くし)は約六千八百年前、世界最古とされていた中国浙江省の河姆渡(かぼと)遺跡の漆製品は約七千−六千四百年前。今回の放射性炭素分析による測定結果は、二千年以上も古い。

 「すぐに別の研究機関に測定を依頼した。それでも、やっぱり九千年前だった」と阿部室長。

 〇一年六月に公表されたこの事実は大きな衝撃となって国内外に伝わり、漆文化が中国から渡ってきたとの大陸渡来説に一石を投じることになった。

 垣ノ島B遺跡の漆製品は、腕輪などの装飾品で、縄文早期の墓から出土した。同調査室の小林貢学芸員は「漆製品は、一本一本の糸に漆を塗って加工している。技術がこのレベルに達するには、いくつもの発展段階を経ているはず。漆が使われ始めた時期は、九千年前よりもさらに古いことになる」と強調する。

 この「世界最古の漆」は、数奇な運命をたどった。〇二年十二月二十八日深夜、遺物を保管していた事務所で火事が起き、この漆製品を含む数万点が焼失してしまったのだ。「言葉もなく、立ちつくすだけだった」(小林学芸員)と関係者たち。だが、小さな救いが見つかった。焼け跡に数センチ大の漆があった。今は、わずかに焼け残った資料を基に関係機関が研究を続けている。

 果たして漆文化は中国から渡来したのか、日本独自のものなのか−。

 「いずれ垣ノ島より古い漆が必ず発見されるだろう。より古い漆が見つかってこそ、漆文化の地域的な広がり、技術の変遷が分かってくる」と阿部室長は言う。河姆渡遺跡の研究を担当している浙江省文物考古研究所考古二室の王海明・主任研究員は「漆の源流がどこにあるのかというテーマが、両国の研究で解明されることを期待する」と話している。



<メ モ> 浙江省文物考古研究所によると、中国最古の漆製品が確認されている河姆渡遺跡では、これまでに約7000年前の層から漆が塗られたとみられる筒が出土。アジアの漆文化研究のシンボルとなっている赤漆塗りの木椀(わん)は、約6400年前の層で見つかった。だが、漆に関する出土品はまだ少ないという。漆の起源については「今後の発掘で中国から垣ノ島B遺跡より古い漆が見つかる可能性がある。現時点では判断できない」というのが研究者たちの共通した見方となっている。



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