2001年10月5日(金) 東奥日報 連載





第二部・終わりなき情報戦争 (2)

■ 日本が狙われている/姿見せぬ“産業スパイ”

 夏草が足元でカサカサ鳴った。小川原湖を渡る風が心地よかった。ゴルフボール型をした真っ白な巨大ドーム群が、遠く三沢基地内に見えた。「やっぱり、そうだ。エシュロンだ」。傍らを歩くダンカン・キャンベル氏のささやきにも似た言葉を佐藤裕二氏は聞き逃さなかった。度の強い眼鏡越しに見えるキャンベル氏の青いひとみが輝いていた。

 二〇〇〇年七月。軍事研究家の佐藤氏は、エシュロン研究の第一人者として知られるキャンベル氏(英国)を案内するため、自宅のある秋田市から三沢に出向いていた。かねてエシュロン疑惑が浮上していた三沢の巨大ドーム群がキャンベル氏の目にどう映るのか、それが知りたかった。

 キャンベル氏の「エシュロン」という言葉を聞いて、佐藤氏の頭はフル回転した。二十年にわたる追跡調査で得た巨大ドーム群についてのさまざまな情報の断片が浮かんでは消えた。そして確信した。「自分の考えに間違いはなかった」と。

 あれから一年二カ月。あの時の確信は今、最終結論に達した。「セキュリティー・ヒル」で威容を誇る十四基の巨大ドームのうち、エシュロン用とみられるのは一九九一年以降に建設された四基−だと。厚い秘密のベールに包まれた通信情報傍受システム「エシュロン」の施設が特定されるのは極めてまれなことだ。

 佐藤氏は言う。「ロシア軍事衛星の傍受用は八基あれば十分です。残る六基のうち二基は米国が自国用に使っている国防衛星通信システム。従って、残りの四基が商業衛星を狙ったエシュロン用と考えられます。四基の建設が最初に確認されたのは冷戦後の九一年八月なので、ロシア以外をターゲットにしていることは明らかです。四基のうち三基が傍受を担当し、収集した情報を一基が米本土のNSA(国家安全保障局)に送信しているとみるのが妥当です」

 巨大ドームは直径十一−十八メートルのプラスチックでできており、その中のパラボラアンテナが通信衛星を追っている。同様のエシュロン基地が世界に二十カ所あり、一日当たり数十億に上る膨大な通信を無差別に傍受。それをキーワード検索システムでふるいにかけ、必要な情報だけを取り出しているのだという。

 では、三沢のエシュロンが狙っている商業衛星とは何なのか。この疑問に対して、佐藤氏は国際通信衛星のインテルサット−と答える。

 「インテルサットは十九基の静止衛星から成る地球規模の通信システムで、世界の百四十四カ国が利用しています。このうち、三沢がターゲットにしているのは太平洋上にある日本向けの一−二基。エシュロン用のアンテナは三基あるので、インテルサットのほかに、日本国内だけで使っている通信衛星(CS)も傍受しているのではないでしょうか」。そう説明する。

 ターゲットは日本、しかもわれわれが日常的に使っている電話や電子メール…と、佐藤氏の分析は告げている。日本は自らの国内にあるエシュロン施設によって盗聴されるという矛盾を演じていたというのである。

 こうした情報の“無法状態”に危機感を抱いているのが、米国の経済上のライバルである欧州連合(EU)だ。EUは今年五月、エシュロンに関する最終報告書をまとめ、「最大の問題は産業スパイとプライバシーの侵害」と指摘、「人権に反している」と糾弾した。もちろん、報告書の中にははっきりと「ミサワ」の文字が記されていた。

 一方で、エシュロンの能力は伝えられているほどではなく、限定されているとの声もある。しかし、世界第二の経済大国である日本が、少なくとも知らないうちにし烈な情報戦争に巻き込まれていたことだけは疑いようのない事実だ。


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