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自社製品の販路拡大で
「青森」認知度もアップ

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山本 浩平 氏
ヤマモト食品株式会社
代表取締役社長
1981年、青森市生まれ。立命館大学政策科学部卒業、筑波大学大学院システム情報工学研究科修了後、東京都内のコンサルティング会社に勤務。大手企業向け組織診断システムの開発・運用、昇格試験採点システムの開発・運用などを担当。2014年、ヤマモト食品入社、代表取締役就任。
■郷土愛が生んだロングライフ商品

----2年前、看板商品「ねぶた漬」で知られる老舗の水産加工会社の経営を引き継がれました。社長就任で、会社に対する見方はどのように変わりましたか。

 

 中学卒業後、スイスの高校に進学したこともあり、会社について祖父や父と話したことはあまりありませんでした。いずれ継ぐことになるかもしれないとは思っていましたが、経営について具体的なイメージは持てずにいました。大学院では企業の組織診断システムの開発などに携わり、コンサルティング会社時代は企業の昇格・昇進試験の採点システムの運用などを担当していました。2014年、祖父の死を機に帰郷し今の会社に入社するのですが、同年10月には父も急死し、仕事の引き継ぎもないまま今の立場になりました。そういう流れの中でも、社員とお客様に支えられなんとか事業を継続できていることは本当に恵まれているし、感謝の一言に尽きます。

 

 ただ、組織という面で自社を見た場合、疑問符がつくこともあります。「ねぶた漬」というロングセラー商品のおかげで今の会社があるわけですが、一方でそこにあぐらをかいていたという側面もあったのではないかと日々の業務の中で思うこともあります。その意味で「ねぶた漬」があったがために、組織としての成長の機会が失われたという面も相当あったのではないか、というのが正直な感想です。就任時、利益は出ていましたが、売上は減少傾向にありました。中小企業として利益を出し続けることは確かに必要不可欠なことですが、持続的な成長を考えると売上も伸ばして行くことも同じくらい重要である。そうしたところに危機感や問題意識を持ち、組織としてもっと成長しなければならないと感じています。

 

 現在、期間契約の人を含めて従業員は80人ほどですが、先々代の祖父のカリスマ性が大きかったこと、先代の父が急逝して任期が短かったこともあり、社員は正直なところ不安もあると思います。正直、私自身も戸惑っているということは否めません。ただ現状を嘆いても前には進まないので、そこは、淡々と信頼を築いていく、そして時間をかけても問題意識を共有してもらえるようにするしかないかな、と思っています。

----誕生から50年になる「ねぶた漬」開発の経緯や、現在の出荷量、顧客の反応をどのように見ていらっしゃいますか。

 

 「ねぶた漬」が生まれた経緯については、当時の関係者が誰もいなくなってしまい詳細は分からないのですが、当社は戦前から戦後にかけて、青森市の青柳にあり、山本商店として海産物の仲卸や、昆布巻の製造・販売を行っていたようです。ただ、昆布巻は生産効率が悪く、新たな商品が必要ということで生まれたのが、昆布、スルメ、ダイコンと数の子(粟子)を和えた「味よし」という製品です。昆布と野菜を和えて食べるという文化は、古くからこの地域の郷土料理としてあったようですが、それが戦後になって家庭で作る機会も減り食卓に上らなくなってきた。祖父はそこに目をつけて商品化したわけですが、そこには、地域の食文化を伝えていきたいという思いもあったようです。この「味よし」が成功しまして、その後、大きな数の子を入れた「ねぶた漬」につながっていきました。現在、個数ベースで「ねぶた漬」が年間160万食ほど出ており、「味よし」と合わせると当社の売り上げの半分以上を占めています。

 

 祖父は、郷土愛の強い人で、商品づくりに際しても、この土地をもっと豊かにしたい、この土地の素晴らしい文化や風土をもっと広く知ってもらいたい、という思いがあったようです。当社の製品が県外にどんどん出ていくことで、青森の魅力を広く伝えていくことにつながると考えていたのでしょう。現在は、7割が県内となっています。県外については、直送で販売しているのは北海道から岡山県まで各都道府県の中央卸売市場に出荷しており、そこから各小売店さんに卸されています。

 

 私も、当社の発展がすなわち地元の振興につながると捉えています。そういう意味では、非常にやりがいのある仕事ですので、国外も含めて、もっと県外の販路拡大に努めていきたいですね。個人的には、「味よし」をもっと県外に売り出していきたいと考えています。東京にある県のアンテナショップでは、水産加工品系の売り上げランキングで、「ねぶた漬」とともに「味よし」も上位に挙がっていて、時には「味よし」の方が上回ることもあります。昆布と野菜を和えるというのは、東北の漬け物の代表格といえると思います。こちらの食文化を伝える意味でも、もっと県外の販路を拡大していきたいですね。これは実際に県外のお得意様を回って驚いたのですが、県外では当社はあくまで「味付け数の子」を製造している会社ということで認知頂いているようです。なので大変お恥ずかしい話なのですが、お得意様でさえ「ねぶた漬」はもちろんその他当社商品についてもあまり知らない会社が多いのが実情です。その意味でも当社の本来の姿をもっと知ってもらえたらと思っております。

■自由な発想で商品展開

----経営者としては、消費者ニーズや市場の変化への対応が求められると思います。今後の新商品開発や商品ラインナップの展望について教えてください。

 

 商品開発の面では地場の企業として県産品の使用比率を上げていきたいです。地元の産品を発掘しその魅力を伝えられる商品を開発、販売することが事業を通じた地域貢献になると考えています。その一環として昨年、「ねぶたホタテ」という商品を新たに販売しました。「ねぶた漬」などに使う数の子は海外産を使用していますので、「県産品で作る商品を」というコンセプトで開発したものです。試験的に販売したのですが、お土産品などとして一定の売り上げを維持しています。一方で、既存商品のブラッシュアップも進めていきたいと考えています。経営者となり、あらためて「ねぶた漬」や「味よし」というのはすごい商品だと感じています。50年続く商品を今から作ろうとすれば、あと50年かかるわけですから。新機軸の商品にもチャレンジしていきますが、これらの看板商品についても、パッケージをリニューアルしたり、季節限定ものを販売するなど、新たな展開により販路を拡大していければと思っています。

 

 次にお客様との「対話」を大切にしてきたいと考えています。当社は小売店さんとの直接取引が少ないので、実際に食べて頂いているお客様の生の声を拾えていないのではないかという問題意識を持っています。ですから、イベントなどには引き続き積極的に参加して、顧客や消費者の皆さんの声を聞く機会を増やし、それを今後の商品開発、商品展開に活かしていきたいと考えています。ただ、祖父の時代から、基本的に自分が食べたいものを作る、というのが当社の商品開発の基本にあります。マーケティング調査で顧客の声を聞くことも大事ですが、そうしたひらめき、勘のようなものも、経営者には必要だろうなと思っています。私も、自分が居酒屋で食べておいしかったものを自社で商品化してみるなど、自由な発想で新商品を提案していきたいと思います。

 

 また、今後は他社との協業ということにも取り組んでいくつもりです。例えば、コンビニのおにぎりなどの引き合いは以前からありますので、賞味期限などの課題に会社として全力で応えていく姿勢が必要だと考えています。

 

 最後に食品会社として「安心・安全」については引き続き厳しく取り組んで行かなければなりませんし、人口減少社会に対応した効率的な機械への刷新など、工場の設備面の充実にも取り組んでいきたいと思います。いずれにしても「ねぶた」という青森を代表する観光資源の名をつけさせてもらっている商品を製造しているわけですから、その50年の歴史を途切れさせないよう、企業としてさらに成長して、青森の発展に少しでも役立てればと思っています。