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東北のものづくりは
おもしろくて、かっこいい

■地域の価値をプレゼンする
金入健雄氏
株式会社 金入
代表取締役社長
1980年、八戸市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、東京の老舗文房具店「伊東屋」に入社。2008年、八戸市に戻り「株式会社金入」に入社。常務取締役を経て、2013年代表取締役社長に就任。13年より東北スタンダード株式会社代表。

----八戸ポータルミュージアムはっち、仙台メディアテークに続いて、盛岡フェザンにも出店されました。ミュージアムショップという店舗展開の意図や、そもそも工芸品を扱うことになった経緯を教えてください。

 東京から帰って会社を継ぐに当たり、自分も家族も友達も、この場所で楽しく生きていくにはどうしたらいいかということを考えました。そこではやはり、地元を誇りに思えるか、誇れるものがあるかどうかが大事だと思ったのです。一方で、文房具店や書店の業界はどんどん厳しくなることが見えていましたので、これから商売としてどうやっていくべきかということを考えていました。少なくとも、伊東屋のような東京の一流の文具店と競争しても仕方がないと、八戸の文具店ならではの個性を出す必要があるだろうと思っていました。

 工芸品を扱おうと思ったのは、たまたま八戸焼の職人さんを訪ねたのがきっかけです。こんなに良いものがあるんだと驚かされました。自分も知らなかったので、もっと地元の人が普通にこうした良いものを手に入れて、生活の中で使えるようになるための提案ができないかと考えました。また小売店としての方向を模索する中で、各地のいろいろなミュージアムショップを見て、街の文具店と同じように書籍や雑貨、文房具を並べていても、編集の仕方でこんなにかっこよい店になるのだということを感じました。それで、最先端のアートやデザイン関連の書籍と伝統工芸品を並べてみるということを考えたのですが、それまで小売店が扱っていないジャンルでしたので、どういう店舗で、どういう紹介の仕方をすればいいのかは手探りです。ちょうどその頃、「はっち」のミュージアムショップの募集がありましたので、コンペに参加したのです。小売店がアートや地元の伝統工芸の世界に入っていけるいい機会をいただいたと思っています。

 地域にあるものの価値を見出し、最先端のものと、工芸品や伝統文化に関わる本を一緒に紹介しているのがうちの特色。同じことを仙台でも盛岡でもやっていますが、東北にこだわりながらも、それに頼らない普遍的な価値をもつものを置きたいと思っているので、八戸で八戸のものだけを置くのでは成立しません。八戸で青森県全体のことをやっているように、仙台では、宮城県を中心に東北全体からよいもの、盛岡でも岩手県を中心とした東北のよいものをセレクトしています。

----お店のコンセプトが、市民の皆さんにもだいぶ浸透してきたように見えます。

 3年たって、市民の皆さんにもだいぶ利用していただけるようになりました。うちが始める前は、地元の人が自分のために地元の工芸品を買うという場は本当に少なかったですし、増して、八戸で津軽塗やこぎん刺しを買えるところはほぼありませんでした。百貨店やギャラリーなどでは売っていましたが、もっと気軽に若い人がそういうものに触れられる場として定着してきたかなと思っています。なかなか触れる機会すらなかった工芸品をかっこよくプレゼンテーションすることで、地元の人が自分たちの文化を誇りに思い、普段使いにも土産品にも使ったりと、そういう流れを少し作れたかなと手応えは感じています。

■これからの暮らしの「スタンダード」を求めて

----WEBでの「東北STANDARD」の活動もそうした考え方から始められたものでしょうか。

 東北STANDARDは、東北各地の職人さんを取材して、インタビューと2分ほどの映像で作品や製作工程を紹介しているサイトです。仙台メディアテークへの出店準備を進める段階で、「東北のよさ」とは何だろうということを改めて考えたのですが、うまく言葉にできませんでした。それで、東北の地で変わらない良いものを作り続けている人たちにお話をうかがうことで、それが見えてくるのではないかと思ったのです。サイトで紹介したものをショップでも販売していますので、商品を実際に見てもらって、その背景をウェブで知ってもらえればと思います。作家さん、職人さんの所を訪ねたくなる、そういう入り口、ポータルになれればいいなと思っています。

 今後は、職人さんの工芸品に限らず、地方の「食」、「祭」、「神様」、「伝承」など、土地土地に根付いた文化全体を扱ってきたいと考えています。盛岡のショップは「カネイリ・スタンダード・ストア」と言うのですが、初めてショップの中にギャラリーも併設しました。多様な表現ができると思いますので、いろんな視点から地域のものをいじって、触れる機会を作っていきたいですね。一方で、ショップですから商品として売れるものをつくり出していくことも必要です。ショップの基準、コンセプトに則した物であれば、伝統の形そのものだけでなく、現代の生活に取り入れやすい商品をつくったり、文化をモチーフとした商品の開発もしていきたい。これまで、八戸焼と津軽塗、デザイナーさんと八幡駒、宮城県の常盤型という染め物の型とデザイナーさんのコラボのプロデュースをしてきました。八戸南部裂織工房「澄」の井上澄子さんと共同開発した南部裂織のステーショナリーシリーズ「KOFU」は、2013年度のグッドデザイン賞を受賞しました。伝統工芸品そのものの紹介とともに、ブラッシュアップしてプロデュースする仕事、伝統文化や工芸をモチーフとしてカジュアルにして手に取ってもらえるようなプロダクツをつくっていくことを並行してやっていきたいと思っています。

 その意味でも、この「はっち」という場に店舗があることは大きく役立っています。伝統的なことと、新しいことの両方を許容する力があることが港町八戸の特長であり、活動の拠点となる場として、わかりやすく「はっち」がある。それがこの施設の特長だと思います。何かをしたいという人が集まるような場所、また外部のクリエイター同士が接触するときに仲介する場になっている。確実にそれは感じています。

----御社の取り組みは、八戸市が進める「フィールドミュージアム構想」と重なる部分も多いように感じます。同構想でポータルミュージアムと位置づけられる「はっち」のミュージアムショップを運営される立場から、この構想をどう見ていらっしゃいますか。

 地域全体をミュージアムとして捉えるということは、地域に良い物があるというのが前提です。住んでいる人にとっては当たり前のことでも、外から見るととてもおもしろい、ということがたくさんあると思うのですが、それはやはり、単に珍しいだけでなく、本当にいいものだから興味をもたれると思うんですね。そういうのが当たり前ということは、地元の人はその価値を共有していると言えます。今までのアート活動というのは、突出した個性をもつ作品とか、新しい表現だけが認められるという風潮があったと思うのですが、今は、共有されている普遍的な価値に興味が持たれている気がしますし、自分もそこに惹かれています。八戸市というフィールドの中にある「共有されている価値」を外の人に示していくために、それを多彩に表現する役割を果たすという意味で、私がやっていることは、この構想とリンクしているといえるかもしれません。ただ、うちは八戸に限らず、仙台でも、盛岡でも、東北というフィールドの中で同じことをやっていきたいと思っています。

 いろいろなプロジェクトが動いていますが、今後の事業展開についての展望をお聞かせください。

 八戸や仙台、盛岡、東北スタンダードの活動で得たノウハウを、もっとたくさんの職人さん、生産者さんに役立てていただけるよう、日本中、世界にも届けていく仕事をしていきたいと思っています。現在、復興庁の「新しい東北」という事業にも手を挙げています。生産者の人たちがもっと夢をもてるよう、お手伝いをしていきたい。私自身はデザイナーでもアーティストでもない流通業者ですから、職人さんの仕事を伝わりやすくするアイデアを出していくこと、その表現の場をつくっていくことが役割だと思っています。もともと職人さんたちは新しいことをやりたいという意欲をもっているのですが、その表現の場がないとか、採算面で不安があってなかなか踏み出せなかったと思うのです。それをうちが企画しプロデュースしていく。そして販売まで責任をもつ。それがうちの強み、小売店であることの強みだと思います。もっと多くの職人さんと一緒に仕事をしていきたいのでどんどん手を挙げてほしいですし、ご存知の方を紹介してほしいと思います。

 そして、株式会社金入としては、こうした活動を事業として成立させていかなければなりません。私は、新しいことをやっているようでも、文具店としてやってきたことが、今の活動にも大きく関わっていると感じています。例えば、文具店が扱う便せんや封筒、ペン。手紙を書くという行為は日本の伝統的な文化です。伝統工芸品と並んで便せんやペンがあることは、その点でつながっています。誰かのことを思ってゆっくり手紙を書く。そうした思慮深い生活、変わらない地に足の付いた生活ということが私の考える「スタンダード」。これからの時代に求められるライフスタイルを提案し、インづくりスピレーションを与えるような店づくり、その見本を東北から発信する活動を今後も続けていきたいと思います。