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特徴を活かしたホテルづくりで
リンゴ産業の発展に寄与

■リンゴに特化した「りんごのお宿」
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葛西 綾子氏
株式会社 アップルランド南田温泉
代表取締役社長
1948年、旧平賀町生まれ。弘前中央高校卒業後、家業の葛西甚八商店(現マルジン・サンアップル)入社。2002年、(株)アップルランド南田温泉代表取締役副社長に就任。03年、マルジン・サンアップル代表取締役社長に就任。09年より(株)アップルランド南田温泉代表取締役社長。現在、平賀りんご商業協同組合理事長、青森県りんご商業協同組合連合会理事、青森県りんご共販協同組合理事。

----リンゴ商を家業とされた先代が、ホテルを設立された経緯について教えてください。

 アップルランド南田温泉は、リンゴ移出商として多くの従業員を抱えていた私の父である先代、葛西甚八が冬の選果作業の後などに従業員たちを温泉に入れてあげたいと考え、自宅の前を掘削したのが始まりです。1972(昭和47)年に創業し、一昨年、創業40周年を迎えました。温泉は大変好評でしたので、根が商売人の父は、次々と新しいアイデアで、施設を徐々に拡大していきました。当初は、近隣の学校にプールがなかったことから、子どもたちのためにと大小のプールも造り、多くの子どもたちでにぎわいました。多いときは、一日1800人もの利用があり、平賀駅から行列ができるほどでした。

 アップルランドのオープン後、父はそちらの事業に注力し、家業であるリンゴ移出商の「葛西甚八商店」は、私に任せました。平成元年に「株式会社マルジン・サンアップル」として法人化し、現在、私が同社と「アップルランド南田温泉」両社の代表を務めています。

----先代は、若い頃からたいへん苦労された方とお聞きしました。経営者として、先代から学ばれたことはどんなことでしょう。

 父の幼い頃は家が貧しく、10代から蟹工船に乗ったり出稼ぎに出たり、大変苦労したようです。20代でリンゴ仲買商の仕事を始め、商売が軌道に乗ったのは30代になってからでした。アップルランドをつくったのは55歳の時です。普通、55歳というと新しい事業を始めるのには腰が引ける歳ですが、父は常に、次に何をするかを考え、実行していきました。とにかく、リンゴを愛し、人々を愛し、そして歌をこよなく愛した人で、オープン当初は、温泉に入りきれない人を自宅に招き入れて待たせてあげたりしました。また歌が好きで、自分でステージショーに出演し、おひねりをいただくと、お返しに無料入浴券を手渡したりしていました。

 私は、そんな父の背中を見て育ち、父からリンゴ相場の仕組みやホテル経営について実に多くのことを学びました。中でも、今でも徹底しているのは、ホテルにもリンゴ仲買にも共通することですが、仕入れの管理の重要さです。仲買の仕事を任せられた頃、父に「今日のリンゴはどうだ?」と聞かれても、見ていないと答えられないわけです。1日30台ぐらい入ってくるトラックの荷台に上がって、一箱ずつ底まで全部チェックしてから冷蔵庫に入れる。ホテルで言えば、食材が質・量ともに注文通り入ってきているかきちんとチェックすることが重要です。仕入れた物はすぐに厨房で計ることを習慣づけました。「計らないと思えば、少しぐらい少なく持ってくることがあるかもしれない。それが積み重なればコストがかさんでホテルはつぶれてしまう」。そういう意識を父から学びましたし、社員にも徹底しています。

----東北有数の保養施設、「りんごのお宿」として、どんな経営を心がけていますか。また、東日本大震災以後、観光産業には厳しい状況が続きましたが、どのように対応してこられましたか。

 どんな会社でも個性が大切。個性がないと生き残れないと思っています。当社は、リンゴの商売もしていますのでその特徴を生かして、「チェックインからチェックアウトまでりんごづくし」ということで、とにかくリンゴに特化したお宿づくりを心がけてきました。例えば、ウェルカムフルーツとして旬の生のおいしいリンゴを差し上げたり、食事も、りんご会席やリンゴを使ったデザートなど、とにかくリンゴにこだわったメニュー、サービスを提供しています。おかげさまで県外からのお客様に大変喜んでいただいています。また夕食時には、オリジナルの無添加リンゴジュースをお付けしていますが、「ここのリンゴジュースは安心で、子どももたくさん飲んでくれる」といった声もいただいて、とてもうれしく感じています。

 リンゴ風呂は、以前から時々行っていたのですが、私が経営を任されてから、中途半端でなく特徴として定着させたいと思い、常時行うようにしました。朝入れて、毎日取り替えますので、大量のリンゴが必要ですが、とにかく一年中切らさないようにいたしました。おかげさまで当ホテルの名物として定着し、インターネットを通じて海外のお客様からも好評をいただいております。とにかく「施設では他に負けても、リンゴだけは一年中切らさない、そこではどこにも負けない」という意識で経営しています。今後も、もっともっとリンゴに特化していくため、スタッフにかつてのりんご娘の衣装を着させるなど、いろいろなアイデアを温めています。訪れたお客様に、地元のリンゴのおいしさを知ってもらい感動していただければ、それが、ホテルのリピーター獲得につながるだけでなく、リンゴ商や生産者も含めた青森のリンゴ産業全体の繁栄につながる、そう考えています。

 東日本大震災の直後は、当ホテルもキャンセルのファクスで床が敷き詰められるほどで、大変厳しい状況が続きました。経営者としては、会社より何よりも、社員の生活を守るということを考えなければなりません。毎月の給料が1カ月でも途切れれば、その従業員の家計は成り立たなくなるわけですから、とにかく一人も解雇しない、そして給料を払えるように営業を休まず続けるということでやってきました。宿泊のお客様が減ると、客室清掃の人の仕事がなくなりますので、希望者を募りマルジンで選果の仕事をしてもらったりもしました。選果場は寒いですから、暖かいところから移るのは大変だったと思いますが、従業員の協力を得ながらなんとか乗り越えてきたという感じです。

 ホテルでも、マルジンでも、社員が本当によく頑張ってくれています。お客様から、社員に対するお褒めの言葉をいただくのが、何より一番うれしいですし、社員には本当に感謝しています。現在、アップルランドでは、「ハイタッチ大作戦」というお子様向けの企画を実施しています。館内の16のポイントでスタッフとハイタッチすると1個サインがもらえて、全部集めるとお菓子をプレゼントするのですが、これは社員のアイデアから生まれた企画です。お子様たちが浴衣で館内を走り回っている姿はなんともなごやかで微笑ましく、こちらがうれしくなります。このほかにも、リンゴを使ったデザートコンテストなど社員の側からたくさんの企画が生まれていて、社員にも、リンゴに特化したホテルづくりという意識がしっかり浸透していることをとてもうれしく感じています。

■輸出の拡大で、生産者に利益を

----最後に、マルジン・サンアップルの代表として、青森のリンゴ産業の今後についてのお考えなどありましたら、お聞かせください。

 私たち問屋がある程度いい値段でリンゴを買わないと、生産者の生活が守れませんし、後継者も育ちません。生産者から高値で買うためには、弊社が利益を出さなければなりません。そのために今、力を入れているのが輸出です。現在、台湾、タイ、香港、インドネシアなどから買い付けが活発に来ています。これらの国にどんどんリンゴが出ていけば、国内のリンゴ相場が上がります。相場が上がれば、弊社は利益を出すことができ、それを生産者に還元することができます。現在、当社の出荷のうち輸出向けは2割ほどですが、海外向けの出荷をもっと増やしていきたいですね。

 以前、リンゴは大玉品種の輸出が中心で、海外では高級品として贈答品などに使われていましたが、現在は量販店でも取り扱っていて、一般の家庭にどんどん入り込むようになり、小玉の輸出も増えてきました。知事さんも一生懸命宣伝してくださって、私たちは大変助かっていますが、私たちが助かるということは、農家も助かるということです。ニュージーランド産などとの国際競争もありますが、青森産のリンゴに対する海外での評価はやはり別格です。競合しても負けませんし、これから販路も広がるかもしれません。農家の皆さんには、もっと誇りと自信をもって生産を続けてほしいですし、私たちはそれを支援していきたいと思っています。