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下北の人に快適な旅を
観光客に旅行しやすい下北を

■都会で当たり前のことを下北でも
写真
三国 渉氏
株式会社 尻屋観光
代表取締役
1969年、むつ市生まれ。90年、トラベルジャーナル旅行専門学校卒業。東京都内の旅行代理店勤務を経て、96年、株式会社東通運輸入社。2009年、同社よりタクシー・バス部門を分離し、株式会社尻屋観光を設立。常務取締役を経て、2011年、代表取締役に就任。同年、旅行事業を展開する株式会社しりかん設立。

----御社の現在の業務内容について教えてください。

 当社は、私の父が1982年に「株式会社尻屋観光タクシー」として創業し、その後、親会社である「東通運輸」との合併を経て、2009年に同社からバス・タクシー部門を独立させ現在の社名となりました。タクシーは今年32年目、下北地域では一番後発の会社で、現在、小型・中型タクシー18台、ジャンボタクシー4台で営業しています。バス事業は、将来、タクシー利用者が確実に減少していくことが予想される一方、東通原発の工事関係でバス需要の伸びが見込めましたので、私が入社してから参入しました。3台でスタートして今年で10年目、現在、小型・中型・大型合わせて30台のバスを保有しています。実際、電力関係の売り上げは大きく、間違いなく当社は原発の恩恵で現在の基礎を築いたわけですが、震災で状況は変わりました。タクシーの売り上げも工事関係者の需要が激減していますので、工事再開の先行きすら見えない状況の今、いつまで我慢すればいいのか、というのが本音です。

----御社では、いち早くタクシーにハイブリッド車や4WD車、ミニバン車を導入しているほか、ドアサービスなど先進的なサービスを展開されています。顧客へのサービス提供で最も大切にしていること、心がけていることは何ですか。

 私が入社した当時は、地元のタクシーもバスも、「車は走ればいい」という感覚が普通でした。確かにここは田舎ですが、都会でも田舎でも、お客さまにとっていいものはいいし、気持ちよくないものはよくない。田舎だからボロボロでいいというのは、事業者側の勝手な理屈であり傲慢(ごうまん)です。一番思うのは、下北の人に恥をかかせられないということ。例えば、下北の人を乗せて東京や仙台に行く時、途中、必ず高速のサービスエリアに寄ります。たくさんあるバスの中で、尻屋観光のバスがボロボロだったら、運転手は恥ずかしくて降りられません。ましてお客様はもっとそう感じるでしょう。恥ずかしくない車、より気持ちよく乗っていただける車を提供するのは、事業者として当たり前のことだと思います。

 ただ、この仕事はやはり人対人。特にタクシーの質を決めるのは、車両が1割、人が9割だと考えています。私は東京で大型と普通の二種免許を取って帰ってきましたので、今もバスはしょっちゅう運転していますが、入社当時はタクシーも運転していました。それで感じたのは、当時は、お客より運転手が上位になっているということ。「乗せてやる」という感覚で、お客さんのほうが小さくなっている。これは都会ではあり得ないことです。

 それで、タクシー部門を総括するようになって最初に取り組んだのが、乗務員の意識改革でした。幸いわが社では、先代もそうした意識で社員教育を行っていましたので、ある程度の下地ができていましたが、それでもやはり甘さがありました。まずは基本的なあいさつの励行から始め、制服を作り、コーポレートカラーである緑と黄色のネクタイを特注して着用を義務づけました。お客さんの命をあずかる仕事ですから、信頼される安心感が必要ですし、何より尻屋観光の看板を背負う責任感を育てたいと思いました。ドアサービスは単にドアを開けてあげることが目的ではありません。自動ドアは運転手が楽をするためにあるようなもので、座ったままだから、ちょっと荷物をもってあげようとならない。降りてドアの開け閉めをすれば、たいへんそうな人には自然に手伝おうという意識になります。 

 また、現在、初乗り料金は640円ですが、私は社員に、「昼飯に毎日640円もかけられるか」という話をよくします。かけられませんよ。私たちは、たとえ100メートルしか走らなくてもその金額をいただいているわけです。少しでも気持ちよく利用してもらう努力をするのが当たり前ですし、まして、近いからと断るなどとんでもない話です。

 顧客サービスといっても特別なものではなく、車もサービスも都会で当たり前のことを、ここでも当たり前にやっているだけです。ただ、640円という料金は自分で決めたものではないですし、どこのタクシーも同じなわけですから、やはり何かしら差をつけなければ競争には勝てないという気持ちはあります。「同じ料金を払うなら、尻屋観光で」と思われたい。今、むつ・下北地区にはタクシー会社が10社以上ありますが、20年後はそんなにいらない。間違いなく淘汰(とうた)されていきます。であれば、少なくとも今はその中の1位を守り続けなければならない。そのために何をすべきか、ということを常に考え、傘サービス、荷物運びなど、できることは実施してきました。配車についても、GPSとコンピューターを使った効率的なシステムを導入していますが、まずは、すべてアルバイトの女性に担当させ、第一声「ありがとうございます」から始めることを徹底しました。それまで配車を担当していた男性社員は、二種免許をもっているのだからと乗務員に転属させましたが、彼らは、お客さんとの会話の中で、「このごろ、電話の応対がいいね」という声を聞くわけです。それが彼ら自身の意識改革につながる。こうしたいい循環が生まれ、今は、「うちのサービスは、他社ではできない」といえるレベルになったと思います。

■車両を活かし新事業を展開

----独自の取り組みであるシャトル便事業を始めた経緯や狙いについて教えてください。

 東北新幹線・七戸十和田駅の開業にあたり二次交通の需要が増えますから、当初からタクシーでの参入を計画していました。ところが、県ではタクシーだけでなく路線バスも運行するとのことでしたので、それでは採算が合わないといったんは撤退したのです。それがふたを開けてみたら、バスは1日2往復。新幹線は当時でも10本ぐらいは停車していましたから、これではどちらが二次交通なのかわかりません。そのバスも1年後に結局なくなりましたので、シャトル便という形であらためて参入したわけです。

 タクシー需要はこれから確実に減っていくでしょう。現在、利用してくださるお客様の中心は70代、80代の人ですが、20年後、今50代、60代の人がその年代になったとき、タクシーにはまず乗りません。マイカーを使うと思います。まして、現在のようなメーター式で640円からスタート、知らない土地ではいくらかかるかわからないというシステムでは、絶対限界が来ます。また、地方ではさまざまなしがらみがありますから、車両やサービスの差別化だけでは、そう劇的に売り上げは伸びません。その中で、シャトル便はうちしかやっていませんから、そこでは、他社の顧客を乗せる機会があるわけです。社員には「そこを拾いなさい」と言っています。「感動させるぐらいのことをしなければうちには来ない」、そう繰り返し話しています。

 七戸十和田駅のシャトル便は、現在、上り6便、下り7便に対応しています。下北からは1時間半以上の距離ですので、特に冬場は多く利用していただいています。雪道の運転が不安な人や、駅に1泊駐車して雪が積もってしまうと面倒だからという人も多いです。また冬は大湊線の運休が多いということもあります。一方、夏場の利用は少ないので、ここに県外からの旅行客を取り込めればと考えていますが、課題は、県外からの観光客には、シャトル便の存在が知られていないということです。

 下北に来る人は、まずはインターネットで域内の交通事情を調べて旅行の計画を立てます。ところが、当社のシャトル便の情報は、公的機関の観光情報ではどこにも出ていません。これをなんとかしてほしい。地元からの送迎ニーズに対しては、自前で毎月新聞折り込みしている広報紙「しりかん通信」などで告知していますが、県外に向けては自社のホームページが唯一のツールです。ですから、「うちは補助も助成もいらないからやっていることをPRしてくれ」と、関係機関に機会があるごとに言っています。

----タクシー・バス事業に加え観光事業にも取り組まれています。今後の展開への抱負などお聞かせください。

 新車両の導入やシャトル便などの新事業は、バス事業が伸び、ある程度ゆとりがあったからできたことです。現在は、東通村内の小中学校の統廃合に伴い運行を始めた貸切スクールバス事業が売り上げの大きなウエイトを占めていますが、これだけでは新しいことを始める余裕はありません。当面は、今もっている車でできることを考えていくことになります。旅行事業も、そうした考え方から始めたものですが、今後、伸びる要素があるのはこの部門だと思っています。

 もともと私は旅行のプランづくりが好きで、添乗員の勉強もしてきたのですが、旅行に行くという発想すらないような地元の人に、家にこもってばかりいないで旅行の楽しさを知ってもらいたいと思い、これまでさまざまな独自の旅行企画を提案してきました。あえて、この辺の人は知らないだろうという新しい観光スポットをコースに入れるのですが、これが結構、売れるのです。

 観光の形が多様化し、個人・グループ旅行が中心となり、団体旅行は減少していくと言われていますが、私はそうは感じていません。団体旅行が敬遠されるのではなく、かつて団体客を受け入れてきた昔ながらの観光名所に魅力がなくなり、魅力がないから旅行会社のコースにのらなくなっただけなのです。おもしろい、行ってみたいと思うポイントを提供すれば、便利な団体旅行のニーズはまだまだあると思います。不老ふ死温泉も、ストーブ列車も、大間のマグロも、各地のイルミネーションも、今人気のある観光名所に来ているのは大半が団体です。団体旅行の潜在需要は間違いなくある。旅行会社もそれを知っている。ですから、青森全体の観光振興という意味でも、県内にはさまざまな魅力ある見どころや催しが新しく生まれているわけですから、これらをもっと旅行会社に告知して、団体を呼ぶ努力をするべきだと思いますね。当社としても、例えば七戸十和田駅や新青森駅で旅行客を迎えて下北を案内するといった観光事業には、これまで本格的には取り組んできませんでしたが、域内でのバス事業の先行きが見えない今、県外客も視野に入れた観光事業への参入も検討していきたいと思っています。