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その町に住む人が本気で動かなければ
誰も助けてはくれない

■町民有志の地域おこし団体から派生
写真
八木橋 孝男氏
プロジェクトおおわに事業協同組合
理事長
1958年、大鰐町生まれ。弘前工業高校卒業。県内の建設会社勤務を経て、家業の農業を継ぐ。2007年、OH!!鰐元気隊の創設に参加。現在、同隊理事。09年、プロジェクトおおわに事業協同組合の設立と同時に理事長に就任。大鰐町商工会理事。

----大鰐町地域交流センター「鰐come」の指定管理者となった経緯を教えてください。

 当事業協同組合は、指定管理者として大鰐町地域交流センター「鰐come(わにかむ)」を運営していますが、その母体は、2007年から活動している地域おこし団体「OH!!鰐元気隊」です。町が抱える課題を行政任せにせず、自分たちで町を元気にしていこうと、農業者や自営業者などの町民有志で結成した団体で、コアメンバーは町民ですが、大鰐のことを知っている人、好きな人なら誰でも参加でき、現在、約200人が活動しています。2008年には、小学生による「OH!!鰐元気隊キッズ」も発足させ、子どもたちも交えて活動しています。

 結成当時、大鰐では、「借金を抱えてもうダメだ」という負のムードが町にまん延していました。大人がそういう話ばかりするので、子どもたちも元気がない。とにかくこのムードを払拭したいということで、あらためて町の魅力を掘り起こすことから始めました。グループごとに、「食」、「名所」、「景勝地」など担当を決めて、町の「良いところ」、そして「悪いところ」を洗い出し、良いものは磨き、悪いものは変えていこうという考え方で、これまで、フォーラムやワークショップ、街歩きのコースづくりなど、町活性化につながるさまざまな活動を展開しています。

 そうした中、2004年にオープンした鰐comeが赤字経営に転落し、町営から民営に転換されることになりました。町が指定管理者を公募しましたが、誰もやる人がいませんでした。そこで元気隊として手を挙げたわけです。

 それまでは任意の団体として自由に活動してきましたが、経営となると責任も生じます。委託料「0円」という厳しい条件もあり、元気隊の中で反対意見もありましたが、私は当初から、ぜひとも元気隊がこの施設を運営するべきだと考えていました。というのは、鰐comeは町の観光の拠点施設ですし、場所も駅前で、まちおこし活動や農商工連携の拠点として活用していくのに最適です。また、仮に大手の企業が経営することになれば、合理化が優先され、私たちが望むような、町全体の活性化につながる性格の施設ではなくなってしまうと思ったからです。さまざまな議論を経て、「鰐comeの再スタートは、住民の手で行いたい」ということで合意することができました。指定管理者の要件を満たすため、私を含め9人の隊員が出資して「プロジェクトおおわに事業協同組合」を設立し、2009年6月から鰐comeを運営しています。

■民営化による変化と効果

----経営を担当するにあたって、赤字からの脱却に向けて工夫した点、町営時代と変えた点などをお聞かせください。またそれはどのような成果をあげていますか。

 最も重視したのは、農商工連携ということです。町営時代は、物販スペースは単なるお土産品コーナーでしたが、町にお願いして半分のスペースを産直コーナーにさせてもらいました。町内の農家にリンゴや野菜を出荷してもらうことにして、各地区の農家のリーダーを回ってメンバーを募り、「鰐come産直の会」を組織しました。46軒ほどでスタートしましたが、現在、会員は100軒を超えています。

 リンゴを中心に、トマト、キュウリなど旬の野菜、また町内の授産施設で生産しているシイタケなどを販売していますが、たいへん好評です。産直の会の農産品は、ここだけでなく、外商として首都圏などでのイベントにも出品していますが、いずれも高い評価を得ています。仕入れに関しては、会員同士で競合しないよう品揃えの調整は難しいですが、おいしい、安心安全はもちろん、とにかく鮮度を重視して、同じものがいつまでも棚に並んでいないよう心がけています。

 また、飲食コーナーでは、特産の大鰐温泉もやしや青森シャモロックを使ったメニューを新たに開発しました。2012年に組合として地域団体登録商標を取得した大鰐温泉もやしについては、手に入る限り必ずメニューに入れるようにしています。ラーメン、そばのトッピングのほか、丼ものや鍋料理もたいへん好評です。

 さらに、私たちの管理となってからは、菓子店、スポーツ店、ふとん店など、町内の商店にも出店していただき、鰐comeを大いに活用してもらうようにしています。私たちだけが儲かって一人勝ちしても、それはまちづくりにはなりません。みんなが栄えるために、どんどんここを利用してください、という姿勢でやっています。

 こうした取り組みを続けた結果、特に物販、飲食を中心に売り上げは順調に向上しています。町営最後の2008年度に比べて、現在の売り上げは飲食が2.5倍以上、物販は3.5倍以上、全体でも2倍以上に伸びました。また温泉の利用者数も、最多だった2004年のオープン時のレベルに戻りつつあります。

 売り上げの主力である温泉については、とにかく清潔であることを重視し、世界一の清掃を徹底するよう、スタッフに指導しております。せっかく風呂に入ってさっぱりしても、少しでも脱衣所が汚れている印象があれば、お客さんはもう二度と来てくれません。私は、指定管理を担当するにあたり、「ホスピタリティー世界一」というスローガンを掲げましたが、清潔であることもその重要な要素の一つだと考えています。休館日は、スタッフ全員で全館清掃を行います。また、その後は、外部講師を招いて、必ず何かしらのスキルアップ研修を実施するようにしています。毎月ですので、似たような内容になることもありますが、こうした教育は、とにかくやり続けることが大切だと思っています。くり返しになっても、常にスタッフに意識づけをしていく、そうした狙いでこの研修を続けています。

----周辺企業との連携による商品開発も行っています。

 大鰐高原りんごを使ったはちみつ入りりんご酢 「さっパ酢」は、平川市の(株)カネショウさんと共同開発したものですが、農商工連携による商品開発の一例です。

 また、弘南鉄道大鰐線の中央弘前駅発着の往復乗車券と鰐comeの入浴券、200円分の買い物券をセットにして1000円に設定した「さっパス」は、運営を始めた当初から発売していますが、現在も好評で、月平均350人以上が「さっパス」で入館されています。

 弘南鉄道大鰐線の廃止は当面は回避されましたが、根本的な問題が解決したわけではありません。無くしたくないのであれば、実際に少しでも大鰐線の利用客が増えるようなアクションを起こさなければなりません。それで鰐comeと共栄していければ一番いいわけです。「さっパス」はそういう考えで始めた企画ですが、今後も大鰐線が存続できるように、新しいメニューを追加した「さっパス」の第二弾など、いっそうの活性化に向けた企画を検討していかなければならないと思っています。

■ふるさとは住民だけのものではない

----最後に、地域おこし、まちづくりに対するお考えをお聞かせください。

 大鰐に限らず、過疎化というのは、何もしなければどんどん進んでいきます。住民が何かしらのアクションを起こすことで、過疎化の進行を止めたり、やり方によっては息を吹き返すことができると考えています。大鰐は借金で大変だと言いますが、住民が大変だと言っているばかりで何もしなければ、誰も助けてはくれません。事態は悪化するだけです。住民自身が動いて初めて、周りの人が「大鰐は頑張ってるな」と、応援したり、手を差し伸べたりしてくれるのです。実際、元気隊の活動を通してそれを実感しました。現在、元気隊には、県内外の方々や、県職員の方も参加してくれています。ですから、とにかく住民自身が動くこと。例えば高齢の方も、何かしら町を活性化するための活動に参加できると思います。参加することで、毎日、自宅でのんびり過ごすよりは、生活に張り合いもできるでしょうし、自分自身が大鰐のよさを再認識できるのではないでしょうか。

 「ふるさと」というのは、今ここに住んでいる人だけのものではないと思っています。今は町外に出て行ってしまったけれど、ここで生まれたり、育ったりした全ての人のものなのです。首都圏在住の町出身の方と話すと、私たちが驚くくらい大鰐のニュースを知っています。この時代ですから、みんな毎日のようにインターネットで町の情報を集めているんですね。それだけ大鰐を気にかけているのです。大鰐はそうした人たちみんなのふるさとなのです。今、元気隊キッズの活動も行っていますが、彼らのうち何人が町に残るかは分かりません。海外に出て行く子もいるでしょう。それでも、ここが彼らのふるさとであることに変わりはありません。

 それが、もし「やっぱり大鰐がだめになった」となれば、それは、ここに残って、ここで暮らしている人間の責任なのです。そう考えると、何かアクションを起こさずにはいられません。元気隊も事業協同組合も、みんな本業を持ちながらの活動ですので、毎日が試練のようなものですが、活動によって、過疎化が止まるだけでもすごいことだと思います。私たちは、それを超えて、大鰐が息を吹き返したと言われるまで“人生賭けて”頑張りたいと思っています。