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「深浦マグロステーキ丼」
 で食の魅力ある町へ

■漁獲量一位のマグロを観光資源に
写真
西崎 朋氏
深浦マグロ料理推進協議会
会長
1972年、深浦町生まれ。91年、県立五所川原高校卒業。93年、(株)黄金崎不老不死温泉に入社。2009年、同社代表取締役社長に就任。12年7月、深浦マグロ料理推進協議会の発足と同時に会長に就任。

----ついに「深浦マグロステーキ丼」がデビューします。開発の背景と経緯、協議会のこれまでの活動についてお聞かせください。

 深浦町は、白神山地、十二湖をはじめとする景勝地に恵まれ、年間を通して多くの観光客が訪れていますが、滞在時間は短く、入り込み数の割に町にお金が落とされていないというのが現状です。例えば、夏は多くの海水浴客が来ますが、途中のコンビニで買ってきたものを食べてそのまま帰るという人がほとんどなのです。そんな中、昨年、町の観光課から声をかけてもらい、地産地消を目的とした新・ご当地グルメを数多くつくり出してきたリクルートライフスタイル・エグゼクティブプロデューサーのヒロ中田さんの話を聞く機会を得ました。ヒロさんの「食が観光資源になる」というお話は、まさに目からウロコといった感じでした。私自身、例えば、マグロの漁獲量が県内一位なのは知っていても、これが観光に結びつくとは考えたことがなかったのです。当館のお客様でも、「露天風呂があるから不老ふ死に行こう」という方はいらっしゃいますが、深浦の料理を食べるため来るという人はまずいません。それと同じようなことが深浦全体に言えるのだと思います。「魚がおいしそう」といった漠然としたイメージはあるでしょうが、白神、十二湖があるから来ているわけで、深浦の食べ物を目的に来ているわけではないのです。この状況を変えていかなければならないということで、ヒロさんにプロデュースをお願いし、新たにご当地グルメの開発に取り組むことになりました。

 初めにヒロさんから、深浦の食材について聞かれ、「実はマグロが一位です」という話をしました。「品質はどうなんだ?」とおっしゃるので、「大間産ほど大きくはないですが、味はいいです」と言ったところ、「じゃあ、マグロでいこう」と。地元ではマグロといえば刺身という考え方しかなかったのですが、大間との差別化、競合を避ける意味でも違う食べ方が必要だということで、ヒロさんのほうから「マグロステーキ丼」という方向が示されました。初めに「深浦マグロステーキ丼」というネーミングまで決まってしまったのです。そのうえで、メニューづくりに参加し、将来、自店で提供していきたいという店を募りました。

 当初10店から集まった料理人のみなさんはメニューの開発を行い、それと並行して私たちは、原料調達の体制づくりや、販売戦略、宣伝方法などについて協議を重ね、具体化していきました。深浦は一次産品も豊かで、四季折々、さまざまな旬の食材があります。そのためこれまでは、保存や加工という意識があまりありませんでした。通年でマグロを提供するためには、そうした技術が必要になります。「マグステ丼」開発の取り組みは、その点の意識改革にもつながったと思います。

----メニューが完成するまで、ずいぶん試行錯誤があったようですが。

 まずは、「マグロステーキ丼」というネーミングに合わせて、各店が試作したものを持ち寄る形から始まりましたが、最初に集まったものは、ヒロさんに「全然だめ」と一蹴されました。どうしても「丼」というイメージがありますから、ご飯の上に焼いたマグロをのせた形から抜け出せなかったのです。それが2、3回繰り返されました。その後、火を使ったファイヤーグルメスタイルとするアイデアが出て道が開けたのですが、それからも細部が固まるまで試行錯誤が続きました。協議会が発足してから全部で30回ほど会議を重ねましたが、そのうち15、16回は、試作品を持ち寄ってはダメ出しの繰り返しでした。

 この試行錯誤のなかで、当初10店参加していた料理人部会は7店になりましたが、私は、よく7店も残ってくれたと思います。もともと各店の交流はそれほどなかったのですが、やはり、東日本大震災後、観光客も減少傾向にあり、なんとかしなければという危機感をみなさんが共有していたのだと思います。根気よく試作と議論を重ねてくれました。ヒロ中田さんに徹底してダメ出しをくらいますので、だんだん7店の結束が強まり、みんなでヒロさんに立ち向かっていくといった感じでした。途中からみなさん本気になって、お互いの試作品についても忌憚なく意見を出し合いましたし、よりよいもの、認められるものをと、関係者全員、テンションも上がっていきましたね。その熱意を目の当たりにしたヒロさんが「立ち上げるなら今」と、協議会発足GOサインが私に出たんです。敵役に徹してくださったヒロさんには本当に感謝しています。私は人前に出るのは得意ではないのですが、最初から経緯を知っていることもあり、迷わず会長職を引き受けさせていただきました。ある意味、深浦のこれからの観光がこの会の活動にかかっているという意識をもっています。

■「白神」記念の年 深浦マグロで誘客へ

----実際に提供が始まりましたが、今後の展望や課題などについてお聞かせください。

 「マグステ丼」には細かいルールがあり、各店の自由度は高くないのですが、その点でも7店の意思統一ができています。まずは統一した形での提供にこだわり、深浦の名物として浸透を図るということですね。いずれ「深浦といえばマグステ丼」と広く認知されたら、各店で基本形のほかにバリエーションを広げていくということもあるかもしれません。また、周知のためには口コミが重要ですから、当面は町民の間での浸透を図り、それが県内、そして全国へ広がってくれればいいと思っています。7店のうち4店は地元に密着した食堂ですので、まず深浦の人に食べてもらう。そして、当館やウェスパ椿山、アオーネ白神十二湖では、団体で県内外からいらっしゃる方にマグステ丼の魅力をPRしていく。この役割分担でPRを展開していくこととしています。

 また現在、参加していないお店でも、初めは遠巻きに見ていた感じだったものが、7店の真剣な取り組みや、また実際に完成までこぎ着けたことを見て、「うちもやってみるか」という意識も生まれてきているようです。協調性をもって、きちんと指導を受けてルールに従ってもらえれば、新規参入者も歓迎です。ご当地グルメとして、少しでも多くの場所で提供できたほうがいいですから。

 協議会としては、基本的に町や補助金に頼らず、各店の売上げに応じた会費や、統一の箸袋の各店への販売などで集めた原資をもとに、今後の事業を展開していきたいと考えています。ご当地グルメとして認知されるためには、通年で提供していくことが大事です。「深浦に行けばいつでもおいしいマグロが食べられる」というイメージが浸透するよう、まずは調達、保存体制をさらにしっかりと固めていきたいと思います。幸い、マグロを一番多くとっている新深浦町漁協の参事さんが当初から一生懸命協力してくれていますし、タイミングよく、町の農水産物加工場もできましたので、今後もみなさんとしっかりと連携していきたいと思います。

 また新メニューの開発にも取り組むこととしています。「マグステ丼」は火を使う料理なので、イベントでのふるまいや販売など、外に出て行って提供することができません。例えば「マグロカレー」などマグロを使った新しいメニューもつくり、県トップの漁獲量ということをアピールしていきたいと考えています。その意味で、協議会の名称は、「深浦マグロ料理推進協議会」としていますが、マグロに限らず、サザエ、アワビ、ヤリイカ、ブリなども、県下有数の漁獲量がありますし、品質もいいですから、これらの新しい提供の仕方も考えていきたいですね。

 観光で町にお金を落としてもらうためには、より長く滞在していただくことが重要になります。長くいてもらうためには、さまざまな観光メニューがなくてはなりません。「深浦マグロステーキ丼」は、その目玉の一つであり、実際それだけの魅力、ポテンシャルをもっていると自負しています。このほか、現在、JRと提携して、漁船に乗って海から白神山地を眺めたり、漁業体験をした後、港の番屋で漁師料理の朝食を食べられる「漁師の朝飯」という体験メニューも実施しています。さらに、宿泊して翌日も楽しんでいただけるよう夜の観光を充実させたり、体験型の観光メニューの充実にも取り組んでいます。

 「白神山地」世界遺産登録20周年の今年は、深浦にとってチャンスの年。「マグステ丼」を核として「白神が育むおいしい山海の恵みがある深浦に行こう」と思っていただけるような町になることが目標です。