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青森の魅力を満喫できる
空間と時間を提供

■青森の文化を表現する
写真
山下 圭三氏
星野リゾート 青森屋
取締役 総支配人
1962年、兵庫県西宮市生まれ。神戸YMCA学院ホテル専門学校ホテル学科卒業。82年、大阪第一ホテル入社。以後、大阪、名古屋のホテルにて、F&Bアナリスト、マネジメントトレーニー、コストコントロールマネジャー等を務める。99年よりユニバーサルスタジオジャパンにてコストコントロールマネジャー、飲食部次長。07年、 星野リゾート入社。同社トマム総支配人室ユニットマネージャー、奥入瀬渓流ホテル総支配人を経て10年より現職。

----古牧温泉という大型施設の経営を引き継がれる上で、施設整備、サービスの面で、最も重視されてきたのはどのような点でしょうか。

 もともと1973(昭和48)年に「古牧グランドホテル」として開館した古い施設ですが、2005(平成17)年から「星野リゾート 青森屋」として当社が再生事業に取り組むに当たっては、「どういう空間やサービスをお客様に提供するのか」というコンセプトを最も重視してきました。当初から、青森をめいっぱい表現しよう、という意味で「のれそれ青森」というコンセプトを掲げてきましたが、2年前に私が着任した時、幹部スタッフの間でも「のれそれ」は津軽弁なので、南部地方の三沢では違和感があるという声が聞かれました。コンセプトというのは、この施設、この会社の法律のようなものですから、マネージメントする人間の合意がしっかりできていないのはよくないと思い、もう一度、幹部たちとゼロから検討しました。そこで、やはり青森の文化を表現し、体感していただく施設として「のれそれ青森」という言葉がぴったりだということを再確認しました。また私は関西の人間ですが、関西から見ると、東北、殊に青森というのは、情報量の面では北海道よりも遠い存在です。私は実際に当地に来て、スタッフたちの朴訥な中にもひたむきに仕事に取り組む姿勢を見ながら、青森の人の言葉や所作に非常に魅力を感じていましたので、そうした地元の人とのふれあいも含めて青森を感じてもらいたいという意味で「ひとものがたり」という言葉を加えました。

 コンセプトというのは、私たちスタッフがそれを具現化するために努力する方向を示すもので、決してお客様に「私たちのコンセプトは○○です」と語るようなものではありません。青森の文化を満喫していただけるような空間と時間を提供し、地元出身のスタッフとのふれあいを通じて、人の魅力を感じていただく。帰った後でお客様が「青森をめいっぱい体感した」と思ってくれればいいのです。ですから、現在、お客様の目に触れないバックヤードに「のれそれ青森 ~ひとものがたり~」のコンセプトボードを掲げ、毎日これを読みながら、常に、お部屋は、料理は、サービスは、ショーは、コンセプトに沿っているか、ブレていないかという切り口で仕事をしています。

----お囃子のライブショーがたいへん好評のようですが。

 ショーレストラン「みちのく祭りや」は、このコンセプトの象徴と言えます。青森ねぶた、弘前ねぷた、八戸三社大祭の山車を背景に、五所川原立佞武多(たちねぷた)も含めた青森の四大祭りのお囃子を演奏していますが、2012年の春から、実際に練り歩くことができる4分の1サイズの青森ねぶたを加え、さらに臨場感のある祭りの雰囲気を味わっていただけるようになりました。青森ねぶたは日本一の祭りだと思っていますが、観客とのインタラクティブ(相互作用)な関係性、拍手や歓声によって、引き手や囃子方の対応やサービスが変化するところが大きな特徴であり楽しみだと思います。そうした、より本物の祭りに近いライブ感を、この空間で表現できればと考えています。私たちは、臨場感、インタラクティブ性といった祭り本来の醍醐味をソフトとして提供していくことを重視しています。それがリピーターを増やすことにもつながると考えています。

 また、全国いろいろなホテルで行われているショーは、ショー専門のプロが演じているのが普通です。うちでは、普段はフロントや客室係としてお客様に対応しているスタッフが練習を積んで演じています。さっきまで客室でサービスしていたスタッフがねぶたを引いたり笛や太鼓を演奏し、ショーが終わると注文をお聞きしたりするわけです。そうした点で、お客様には、より親近感をもって楽しんでいただくことができると思いますし、ここでも「ひとものがたり」を感じていただけたらうれしいですね。素人だからレベルを落としていいということではなく、プロに負けない演奏ができるよう、日々、練習を続けています。

----ショーを含め、さまざまな企画のアイデアはどのように決定しているのでしょう。またお客様の反応の把握にはどのように取り組んでいますか。

 私もいっぱいアイデアは出しますが、総支配人が言ったからすぐやるということではなく、各現場の責任者たちが実際のお客様とのふれあいの中から提案してきたことを重視しています。

 スタッフには、うちの会社は逆ピラミッド、実際にお客様と接する多くのスタッフが上にいて、総支配人は一番下なんだということをよく言っています。企画の提案も、またお客様の満足度を測るのも、現場の感覚が最も大切です。宿泊いただいたお客様に満足度をうかがう調査は常に行っていますが、そのデータがフィードバックされるまでには少し時間がかかります。ですからその他に、スタッフには、直接「いかがでしたか」とお客様にお声がけするように依頼しています。ただ、これは自信がないと聞けないんですね。サービスでも、料理でも、自分がお客様に提供したものに自信がないと「どうでしたか」とは聞けないものです。全スタッフが、いつも、「いかがでしたか」とお客様に真っ直ぐに聞ける、そうなることをめざしています。

■震災の影響と環境の変化に対応して

----2011年は、東日本大震災が発生し県内の観光業は大きな打撃を受けました。また三沢市では十和田観光電鉄(十鉄)の鉄道廃止など、三沢駅前の再活性化が課題となっています。三沢駅前の観光施設として、これらの環境変化にどのように対応されてきたのでしょうか。

 震災では、当社への影響はやはり風評被害という面が大きく、震災前に比べて、特に海外からのお客様は半減しているというのが実情です。ただ、震災後間もなく宿泊していただいた韓国の方にお聞きしたところ、放射能の影響は心配だけど「死んでもいいからここに泊まってみたかった」とおっしゃっていただいたんですね。非常にありがたかったですし、きちんとした情報を発信し続けることの大切さを痛感しました。劇的に回復するにはまだ時間がかかると思いますが、タイミングが来ればお客様は戻って来てくれると信じています。その日のために、ホームページなどでの情報発信をきちんとやっていくこと、また県の観光誘致活動などに積極的に参加して海外でのPRを続けることが大事だと思っています。

 駅前については、再活性化に向けて再整備を検討する会合に参画させていただいています。民間では十鉄さんとうちだけだと思いますが、駅前地区は、例えば寺山修司ゆかりの場所など、観光資源となり得る場所がありますから、これらをどのように活用して駅前のにぎやかさを取り戻していくか、皆さんと協力して取り組んでいきたいと思っています。

■地元の資源、言葉にもっと誇りと興味を

----雇用面でも青森県に大きく貢献されていますが、青森の若い世代に期待すること、また感じることをお話しください。

 また、自分たちがもっている宝をもっと大切にしてほしいですね。私はここに来る前、奥入瀬渓流ホテルにいましたが、三沢からでもすぐそこに八甲田や十和田の素晴らしい自然がある。そのことに気づいていない、というか、興味がない人が多いですね。これはたいへんもったいないことだと思います。地元の大きな資源を、自らの誇りとして自信をもってお客様に紹介できるようになってほしいと思います。同じく地元の言葉もそうです。自分の地元の言葉が話せない人が多い。本当に話せない人もいれば、標準語でないと失礼だという先入観がある人もいるようですが、実は、逆に「標準語だけしか聞けなかった」と、がっかりされて帰るお客様が多いのです。うちでは、希望するスタッフには、標準語の他に自分が話せる方言、津軽弁、南部弁、下北弁を記入したバッジを付けてもらっているのですが、「青森の文化」と「人の物語」を表現することをコンセプトに掲げているわけですから、基本的な接客ができた上で、求められていると感じたら方言で対応することもできる、ここならではの会話でお客様を楽しませることができる、全スタッフがそうなることが理想ですね。