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地酒は地方の
食文化の結晶

■メード・イン・トワダの味を追究
写真
稲本 修明氏
鳩正宗株式会社
代表取締役社長
1962年、十和田市生まれ。明治大学商学部卒業。大手洋酒メーカー勤務の後、国税庁醸造試験所(現独立行政法人酒類総合研究所)にて酒造りを学ぶ。92年、鳩正宗株式会社入社。98年より現職。稲本商事株式会社、株式会社稲本商店の社長を兼任。2012年、十和田ガス株式会社代表取締役社長に就任。

----十和田市唯一の酒蔵として長い歴史をもつ御社の酒造りへのこだわり、企業理念などについてお話ください。また「鳩正宗」の名前の由来について教えてください。

 当社は、明治32(1899)年の創業ですが、当初は、現在のアートステーショントワダ、以前松木屋があった場所で、稲生川にちなんだ「稲生正宗」という銘柄の酒を製造していました。昭和初期、一羽の鳩が酒蔵の中の神棚に棲みついたことから、信心深かった当時の当主が、この鳩を家の守り神として大切にし、社名も酒の名も「鳩正宗」に変更したといいます。酒蔵の場所は変わりましたが、今も敷地内に「鳩神社」という小さな祠をつくりお祀りしています。

 現在、「地酒は地方の食文化の結晶」を社のモットーとして、奥入瀬川の清冽な伏流水、十和田産の「まっしぐら」など、地元の水、地元の米、そして地元の技で、“メード・イン・トワダ”の酒を造ることを心掛けています。技については、酒造りの責任者である杜氏は、以前は岩手県から南部杜氏を招いていましたが、平成16(2004)年に佐藤企という社員に杜氏資格を取得させ、現在、彼を中心に酒造りを行っています。地元の人間ですから、地元の方の要望や嗜好の変化を敏感に察知して、それに応えていける体制ができたと思っています。「八甲田おろし」「奥入瀬」といった十和田の地名を冠した酒は当社ならではのものですから、それにふさわしい、十和田の清澄なイメージと合致する酒造りを目指しているところです。

----御社のお酒の特徴、味の魅力について教えてください。

 奥入瀬の伏流水がやさしい水なので、お酒もやさしいのど越しに仕上がります。いわゆる「きれいなお酒」です。技術的には、活性炭を使わない、特別純米酒以上では、火入れ(殺菌作業)を一回しか行わないなど、できるだけ米本来の味を引き出す努力をしています。

 お酒の嗜好には流行り廃りがありますが、今は、味が濃いめで且つ酸味があって飲んでもスパッと切れる、何杯でも飲めるというお酒が好まれています。当社でも、そうした人気の傾向に合わせて、毎年、少しずつですけれども味を変えています。一方で、地元の方に親しまれた味を守っていくことも必要です。また、酒は料理の引き立て役ですから、十和田で一軒だけの酒蔵としては、バラ焼きや馬肉料理に合うお酒、ヒメマスに合うお酒、料理とお酒がお互い引き立て合うような味も追究していきたいですね。

■日本酒業界の新しい風

----清酒の出荷量は1973年をピークに大幅な減少傾向にあります。日本酒は日本の食文化においてたいへん重要な要素ですが、日本の食文化の伝統を継承するお立場から、日本酒の役割の変化や、消費拡大に向けた御社や業界の動きをご紹介ください。

 今年、国家戦略会議の中で、「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」というプロジェクトが立ち上がりました。酒蔵は各地域の宝であるという認識のもと、官民が連携して、日本酒・焼酎の魅力の認知度向上と輸出促進とに取り組もうというものですが、そもそもそれぞれの国の主食で造る「国酒」というのは、その国民の体質に絶対合っていると思うんですね。フランスのワインも、ドイツのビールも、自国内でのアルコール消費量におけるシェアは下がってはいますが、それでも6割、7割は維持しています。これに対して日本酒はわずか7%しかないんです。これは由々しき事態です。私たち酒蔵は、日本の伝統文化の継承者として日本の国酒を造り続けるのが使命ですが、伝統文化だと敷居を高くするのではなく、結婚式やお正月などハレの日に飲んでいただくという伝統は守りつつ、日常、非日常を問わずいつでも気軽に楽しんでほしいと思っています。まさに日本酒をエンジョイしてほしいということで、このプロジェクトは追い風と受け止めていますし、一緒になってどんどんPRしていきたいです。

 お酒を楽しんでいただきたいという意味では、当社では、平成16年に焼酎の製造免許を取得して「吟醸酒グラッパ」という商品を開発しました。また一昨年、リキュールの製造免許も取得しまして、十和田産のブルーベリーと梅を清酒に漬け込んだ清酒ベースのフルーツリキュールを製造しました。また全国の酒造業界の団体全体としては、日本酒のハイボールや、清酒をライムで割ったサムライロック、また濁り酒を牛乳で割ったものなど、カクテルスタイルでの日本酒の多彩な飲み方を提案しています。今後もさまざまな形で清酒に親しむ機会を提案していくことが大事だと思います。ちょっと目先を変えることで、若い人や女性などこれまで日本酒を飲んだことのない人が試しに一杯飲んでみてくれれば、それだけでも0杯が1杯になるわけですから大きいことだと考えています。

----県内の蔵元では若い杜氏の活躍が目立ち、また御社も参加された「Future4」といった新しい試みに注目が集まっています。

 「Future4」は、県内4酒蔵の若手杜氏4人が結成したグループです。昨年、使用米、精米歩合、使用酵母など条件を統一して同時に仕込みを行い、できた酒を4本セットで販売するという企画を行いました。

 この業界は、もともと各社の仲が良く、相互に助け合うという関係にありました。そういう下地があった上で、さらに、彼ら4人は、社員杜氏という立場も同じですし、杜氏になった時期もだいたい一緒で、おそらく同じような問題意識や課題を抱えていたのでしょう。彼らが集まって議論するようになり、やがて各々の技術を世間に問うてみたくなったのは、自然な流れだったのだと思います。われわれ蔵元としても、彼ら4人から相談されたわけですが、蔵元同士の切磋琢磨にもなるだろうということでバックアップしていくことになりました。彼らにとっては、飲み比べられるわけですから、非常に厳しい企画ですが、あえて厳しい道を選んでも自分の技術を世に問いたいという姿勢には敬意を表したいと思いますし、特に若い人の間で消費が低迷している中で、それぞれの地元の蔵元で若い人ががんばっている姿を世にアピールできたのはとても良かったと思います。

 実は、秋田県でも「NEXT5」という同じようなグループが生まれていて、そことの技術交流も進んでいます。こういう動きが岩手でも宮城でも出てきて、どんどん輪が広がっていけば、技術の向上につながりますし、今まで日本酒に興味がなかった人を引きつけるきっかけにもなると思います。今年は、酒米「華想い」を使ってこの企画をやろうというところまで決まっています。高級酒をつくれる酒米ですから、より華やかでおいしい酒になるだろうと私も楽しみにしています。

■中心新商店街の活性化に向けて

----稲本商店として取り組まれたアートステーショントワダ(AST)の事業について、その狙いや意義について教えて下さい。

 もともと当社の酒蔵があった場所ですが、十和田市の中心でありシンボリックな場所でもあります。松木屋が閉店してから、1階だけテナントを入れて営業していたのですが、景観上も良くないですし、あの場所を活性化することが市全体が元気になることにつながるのではないか、という意識は地権者として常に持っていました。そうした中で、十和田市で中心市街地活性化基本計画が立ち上がりましたので、その一事業として設置したものです。

 現代美術館ができて、官庁街の観光客は確実に増えたし、客層も変わりました。このお客さんを中心商店街に引き込む動線となることがASTの主たる機能で、現美、AST、商店街、新渡戸記念館というように回遊する人が増えてくれればいいと思っています。同時に、お土産を買うところがない、休む場所がないといったこれまでの市街地観光の問題へも対応した施設となったと思います。ビヤガーデンやダンスの発表会などの企画で市民にも活用していただいていますが、今後は、商店街とコラボレーションした企画などにも取り組んでいきたいですね。