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明るいところ、楽しいところには、
人が集まる

■「のっけ丼」効果と売る側の意識改革
写真
葛西 稔氏
青森魚菜センター共進会
会長
1956年、青森市生まれ。高校中退後、さまざまな職業を経て、父親の魚の行商を手伝う。92年、青森魚菜センター内に店舗を構える。2005年より同センターの店子組織である共進会の会長を務める。

----青森市の名物としてすっかり定着した「のっけ丼」。刺し身や総菜など好みの具材を気軽に味わえますが、始められた経緯を教えてください。

 新幹線の全線開業を前に、青森商工会議所の企画で始めたものです。それ以前に、JR東日本さんの方からもご提案いただいていたのですが、もともとここは飲食店への卸が専門の市場でしたので、小分けにして売るということに、みなさんとても抵抗感がありました。大きい柵単位での販売が主でしたから、小さく切り身にしたら残りが売り物にならない、無駄が出る、ということで、当初は、私も含めて出店者はみんな反対しました。

 ただ私は、何かしらのアクションを起こして市場を活性化していかないと、いずれ立ちゆかなくなる、という思いも同時にもっていました。商工会議所からの話は、国からお金も出るというし、3カ月の期間限定ということでしたので、「とにかくやってみるか」という気になりました。会議所が企画をつくってくれれば、こちらはみんなまとまっていきますから、ということで、実際に始まったのが2009年の12月です。

----お客さんの反応はいかがでしたか。

 それが、始めてみたら反響がものすごいわけです。地元はもちろん、全国のテレビ、雑誌の取材が次々やって来て、芸能人もいっぱい来た。観光客が全国からやってくる、地元の人も来る。てんやわんやのうちに3カ月が過ぎてしまった。さてどうするか。やめられないですよ。幸い、JRさんがバックアップしてくれて、ツアー商品に組み込んでくれた。ポスターも作ってくれた。またJALのキャビンアテンダントさんたちが来て、「これはおもしろい」ということで、JALのパック商品にも組み込んでくれる。それでまた全国からお客さんが団体で来るわけです。それから国外からさまざまな視察で青森にやってくる団体を県が連れてきてくれる。それで台湾、韓国、中国など外国のお客さんも増えました。

 これまでお客さんが一番多かったのは、去年のねぶた期間の8月6日で、一日に2,200人が入りました。7日も1,900人。店の外まで行列ができました。みなさん本当に喜んでくれます。特に海のない地方の人は、青森の魚種の豊富さに驚いているようです。大きなタコを見て喜んだり、とにかく大間のマグロはないか、という人も多いですね。それから地元の方も、年配のお客さんだけだったのが、若い人も来てくれるようになりました。若い人の中には、「市内にこんな市場があったんだ」と驚いている人もいます。

----「のっけ丼」を始めて、市場のみなさんにどのような変化や効果がありましたか。

 正直言って、始める前は元気がなかったのです。飲食店自体が激減しているわけですから、卸も当然落ち込みます。市内のお寿司屋さんは、昔に比べると半分になりました。居酒屋さんも減りました。単純に考えてお客さんは半分になっているわけです。20年前、私がここに店をもった時は全部で48店、空き番台なんかなかったのですが、今は28店。「のっけ丼」を始める前は、さらに何店か、もう閉めようかというところもありました。やはり飲食店への卸だけでは、いずれ立ちゆかなくなるという意識がみなさんにあったようです。そうなると市場の雰囲気としてなんとなく元気がなくなってくる。市場は活気が大事ですから、とにかく人を呼ばなければ、どうやってPRしようかと考えていたところに「のっけ丼」の話が来たわけです。

 降ってわいたような話でしたが、始めてみて、やっぱりこれだけ人が来るとみんなボサッとしていられない。来てくれた人を逃がせないと、みんなやる気を出しました。鮮魚以外のお店、お総菜屋さんなども「生ものが苦手な人もいるから」と参加してくれる。のっけられないものを売っている店も、じゃあうちではご飯を売るという形で、当初は反対していた人も含めて、今は全店が協力してくれています。

 また「のっけ丼」を始めて、魚を小さな切り身にするようになったので、卸専門から、一般のお客さんへの小売りにも自然に対応できるようになりました。今は、昔に比べて大家族も減っていますから、小売りでは柵単位で売れることはまずありません。3分の1とか、何円分とか、いろいろな要望に応えるようになって、「のっけ丼」以外の一般の小売り販売も徐々に増えています。どんな注文にでも対応できるようでないとやっていけない、そういう意味での意識改革にもつながったと思います。毎日、朝から11時頃までは卸中心、昼からは団体と、地元の方への小売りという感じで、みんながんばっていますね。

■活気ある市場を維持するために

----マスコミの取り上げ方も一段落してきましたが、現在の賑わいを維持、拡大していくため、古川市場として今後の課題をどのようにとらえていますか。

 「のっけ丼」については、システムを少しずつ改良しながら、新しい企画も打ち出しています。今年の4月から食券制にしました。1000円分と500円分の2種類あって、1店ごとに小銭のやりとりをしなくていいので、お客さんも便利だと思います。食券の半券で応募してもらうと、鮮魚詰め合わせが当たる「お楽しみ抽選券」という企画も実施しています。また、ホームページでは、自分が作った個性的な「のっけ丼」を紹介、自慢してもらうという企画も行っています。

 ただ、「のっけ丼」だけに頼りすぎては、市場ではなく丼物屋になってしまいます。地元の方にも多く来ていただけるようになりましたので、これからは、さまざまな面で市場本来の魅力を打ち出し、買い物の楽しさを感じてもらえるような工夫をしていかなければ、と思っています。 そのためには、新しい店や建物はいらないですが、それよりもっと買い物がしやすくなるように、歩道などの整備を進めてほしいですね。年配の人も安心して歩ける、それから雪が積もっても観光客の方も不便なく歩けるように、そうした環境整備が大事だと思います。地元の人も観光客も一緒に界隈をそぞろ歩く、昔の古川のような賑やかさを取り戻したいですね。

 私は、「のっけ丼」はお金を払ってもらう試食だと考えています。ここで少しずついろいろなものを食べて、おいしければ、地元の人は一つ二つと切り身で買っていく。観光で来た人は、後で「送ってください」と注文してくれる。そういう効果が実際に現れています。その場で買ってくれなくても、「のっけ丼」を通して市場に気軽に来られるようになったり、来てみて楽しい思いをして帰ってもらえれば、また立ち寄ってくれるんですよ。明るくて楽しいところには、人は集まるものです。ですから、今は、売れても売れなくてもとにかく活気が大事、人を呼ぶことが大切という気持ちでやっています。

 市場本来の魅力という面では、対面販売ですから、会話も重要です。観光客の方には津軽弁も楽しんでもらっているようですし、小さな子どもたちが魚のことを聞いてくれば、みんな丁寧に教えるようになりました。「とにかく遊びに来てみてください」、そういう気持ちでいいと思っています。そして大事なのは来てくれた人に気持ちよく帰っていただくこと。一回の出会いを大切に、このお客さんのためにうちの店は何ができるか、そうした真心をもった対応をしていれば、その人は絶対また来てくれます。でもまだ、一日に2,000人も来て、しっちゃかめっちゃかになってくると、さすがにみんな顔がきつくなってくる。「いらっしゃませ」の言葉も出なくなってくる。このへんは、みんなにがんばってもらって改善していかないと。ここの店子は年配でベテランの人が多いわけですから、できて当たり前だと思います。

 今、この市場には、年間10万人のお客さんが来ています。「のっけ丼」で市場の一体感が強まりましたから、この輪を周辺の市場や商店会にも広げて、みんなで青森の魅力をPRしていけば、古川地区全体として、また青森市全体としても、もっと活性化していけると思います。