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地域に根ざしながら
世界の市場を見据えた事業を展開

■全ての業務に優先する社員教育
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塚原 安雅氏
塚原グループ
代表
1950年、八戸市生まれ。立正大学卒。 80年、トヨタカローラ八戸取締役。91年、同社社長に就任。同社や塚原フィットネスクラブウイングなど9社からなる企業グループ「塚原グループ」を率いる。 03年、タイ国バンコクにトヨタ・リブラ社を設立。地方の自動車ディーラーとしては日本初の海外進出を果たした。 また05年には、先代社長がコレクションした世界中のクラシックカーを公開するツカハラミュージアムをオープン。ものづくり文化の技術と精神を次世代に伝えるとともに、社員教育にも活用している。

----先代から引き継いだ歴史ある自動車販売会社の経営者として、常に心がけていることはどんな点でしょうか。

 お客様あっての商売ですから、グループ内各社とも、一番大切にしているのは社員教育、特にしつけ面の教育を徹底しています。日本人は礼儀正しいとも言われますが、海外に出てみると、宗教の戒律がある欧米やアジアの人のほうがきちんと礼儀を身につけています。日本人はともすると礼節を忘れがちですから、なかなか時間のかかることですが、繰り返し繰り返し教育しています。

 また自動車は、人の命をあずかる商品ですから、販売後も常にお客様と接点を持ち続けることが重要です。社員には、とにかくお客様をよく知ること、そしてできるだけコミュニケーションをとるよう指導しています。

■適正な規模、拡大均衡がポイント

----八戸を中心として、青森県全域から岩手県まで幅広く事業展開されています。拠点を増やすメリットやねらいを教えてください。

 自動車販売は、ある程度の市場規模がないと展開できなくなっています。当社は八戸を拠点として創業しましたが、地域内だけでは市場に限界があり、また地域経済の動向に左右されたり、冷害など災害の影響も受けます。リスクを分散する意味もあり、拠点を増やし、新たな市場を開拓してきました。

 ただし、あまり大きくなりすぎてオペレーションできないようでは問題です。私は、「一人一人が重要な役割を担ったクルー(漕ぎ手)として共通の目標に邁進する」という意味を込めて、自社グループを「塚原クルーズ」とも称しています。企業を船に例えると、「戦艦大和」になってはいけない、駆逐艦レベルの機動性をもった適正な規模を維持することが重要と考えています。それぞれの地域で最適規模の経営を行うことを重視して拠点整備を進めてきました。

----地方のディーラーとして日本で初めて海外にも進出されています。

 やはり市場拡大とリスク分散がねらいです。メーカー系列のディーラーは都道府県ごとに販売権を独占しているわけですから、これ以上国内での市場拡大は望めない。この地域の中をかけずり回ってパイを奪い合っているより、市場が伸びている地域に進出したほうが効率的なわけです。

 自動車の歴史全体でみるとやはり先進地は欧米ですから、そうした先輩国がどういう動きをしているかを見ていれば、だいたい次にやるべきことはわかります。欧米に倣って、メーカーはどんどん海外に拠点をつくっていくのにディーラーが出て行かないのはおかしい。いろいろなところを見た結果、やはり東南アジアがもっとも伸びるだろうとの判断で、タイに進出しました。現在、東南アジアでは当社だけですが、今後はもっと出てくるでしょう。

----ハイブリッド車、EV車の登場など、モータリゼーションは変革期を迎えています。これから、消費者にどのようなカーライフを提供していくべきとお考えですか。

 都市部と異なり、地方では交通手段としての自家用車の重要性は変わらないでしょう。そうなると地方でこそ、自動車には低燃費で環境負荷が少ない性能が求められてきます。現時点でハイブリッド車は最も優れた方式だと思いますが、今は過渡期です。エネルギーの大転換が起こって、発電やロケット開発などさまざまな分野にも利用できるものとなると、私は、最終的には水素自動車に収斂していくのではないかと思っています。ディーラーとして、それを見据えた備えや勉強は必要と考えています。

■社員教育を生かして新たな事業を展開

----自動車販売とは直接結びつかないフィットネス事業に進出したのは、どういったきっかけからですか。

 ウイングもまた、新たな市場への参入を模索した中から生まれた事業です。長年、社員教育に力を入れてきましたので、そのノウハウを生かせる事業はないか、ということで考えました。また北国ですから、冬でも子供たちが泳げる環境をつくれば地域貢献にもなるとスイミングスクールから始めました。これも欧米を見て、ドイツなどの温泉保養施設から学んだものです。

 現在は、少子化が進み、主に熟年層の健康づくりの場となっていますが、地域のコミュニティーとして、お年寄りが若者とコミュニケーションをとれる場として活用いただいているようです。ウイングが高齢者と若者の交流の場になって、元気なお年寄りが増えてくれればうれしいですね。

 また、今後は高齢化がさらに進みますから、高齢者対応のメニューを充実させていきたいと考えています。また年配の方が相手ですから、万が一の場合にも対応できるよう、医師との提携や、専門知識や資格をインストラクターに取得させるための研修も進めています。

----ツカハラミュージアムも、地域貢献という思いから創設されたのでしょうか。

 それもありますし、やはり私どもの企業がやっていることを、ひとつ形として残しておきたかったということが大きいですね。立派な社屋を建てても、時代とともにスクラップアンドビルドを繰り返すだけで何も残りません。ものづくりの文化を形にして、さらに事業化しておけば、次代に引き継がれずっと残っていきます。形に残すことで、次の世代の人が、この仕事に誇りややりがいをもってくれるでしょう。また、自動車技術の歴史を学ぶという意味で、社員教育の場としても活用しています。リストアやメンテナンスを僕がやると道楽になってしまいますが、社員にとっては貴重な教育の機会となります。

■趣味は考えること

----休日はどのようにお過ごしですか。ご趣味などありましたら教えてください。

 まったく無趣味で、ボーッとして何かを考えているのが好きですね。不思議なもので、ひとつの事業で疑問に思ったことが、実は他の事業にも関わってくるということが多々あります。ある事業での疑問点、問題点をつぶしていくと、その考え方や技術が、グループ内の他業種の会社にも応用できる、あるいは新しい事業のアイディアに結びつくこともあります。まさに「必要は発明の母」で、なんとかしなければ、と考え始めるわけですが、そこからいろいろと考えが広がっていくのは楽しいですね。

■青森県経済への提言

----地方に拠点を置きつつ、グローバルな視点での事業展開を実践されているお立場から、青森県経済の現状をどのようにご覧になっていますか。

 これまで補助金財政でやってきた部分が大きいせいか、自助の努力でやっていく術を考える力を持った人が足りないのではないかと思います。切り開く力をもった人は、ここでは事業を起こせないとか、雇用の場がないという理由でどうしても県外に流出してしまう。その対策として、奨学金のあり方をもう少し考えてみてはどうかと思います。例えば、進学や就職で県外に出ても、何年か後に青森に帰って来るなら返還しなくていい、といった独自の奨学金制度があればいいと思います。そうすれば地元で起業する方ももっと出てくるでしょう。

 また、これからの企業は海外との競争になります。起業家を育てる意味で、海外を見る機会をつくっていくことも重要だと思います。ここで仕事をしながら、マーケットは中央や海外を見据えてもいいわけですから。中国、韓国をはじめとするアジア勢は、マーケットに合わせて製品を開発していくピッチがものすごく速い。その点、日本は一度決めたことはなかなか変わらない。柔軟性がないと感じます。人材育成を含めて、一歩先を考えること、柔軟に機敏に対応すること、それができれば日本の中でも青森県はまだまだ伸びていけると思います。