首都圏発 東奥トップインタビュー 明日への挑戦


■第7回 友田 満氏 株式会社日本文芸社 代表取締役社長

 
   
顔写真
友田 満(ともだ・みつる)
 1950年7月10日生まれ。青森県むつ市(旧大畑町)出身。69年、青森東高校、73年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、同年4月、日本文芸社入社。87年、書籍編集部編集長。94年、取締役兼書籍編集部長。2000年、取締役兼書籍出版本部長。07年、常務取締役兼経営管理室長を経て、10年、同社代表取締役社長に就任。



一貫して「売れる本」を追求

―青森県出身ですね。社会人になるまで、どんな過ごし方を?

 父は旧国鉄職員で樺太鉄道に勤めていましたが、終戦で大畑(現・むつ市)に引き揚げて来ました。転勤に伴い野辺地、乙供、秋田県の横手などへ。中学校は三沢です。写真が好きで、父が退職金で買ったカメラで三沢の米軍基地開放日に、F104戦闘機などを撮っていました。三本木高の2年生2学期に、青森東高に転校。高校では写真部に入り、フィルムを自分で現像し大きく引き伸ばしては、魅力を感じていました。

 大学は日大芸術学部。写真で4年間暮らせればいいなあと。しかし、卒業時の求人はほぼゼロ。唯一求人があった会社に内定しましたが営業職。さりとて、写真で生きていくためスタジオなどでさらに修業するのも大変なこと。そこで日本文芸社を受けました。

 600人くらい試験を受けた中で、最終の4次試験の飲み会を経て私一人選ばれました。飲んでおかしくならないかまでチェックされたわけです。当時、会社はちょうどスタジオをつくった時で、社長からしてみれば、編集の仕事がだめなら、カメラマンという使い道もあるなと思ったのでしょう。卒業制作のテーマは『佞武多』。

―中学校から好きだった写真が、社会人の入り口まで導いてくれた側面があるようですね。会社では、どんな仕事を?

 「週刊漫画ゴラク」担当で、作者からの原稿取りです。カメラとは全く違う仕事でおもしろかったですよ。梶原一騎さんや小池一夫さん、松本零士さんら大作家が書いていました。ビッグ錠さんには、一度キレられたことがありました。「おれはもう描けない。帰ってくれ」と言われ困りました。「先生が急病と言うことで落としましょう(休載しましょう)。でも読者がどう思いますかね。私は仕事ですから、締め切りの明日朝5時まで待ちますが」。すると、また描き始めました。ビッグさんは大変な苦労人なので、原稿を落とすはずがないと確信していました。編集者としての駆け引きですね。

▼1年で辞典完成

 4年くらい漫画の編集をやりましたが、一生続けるわけにもいかないので、会社を辞めようと思ったころに、書籍編集部に異動しました。当社で初めての国語辞典をつくる時でしたが、たった1年でつくれということで、だれもやろうとしなかった。辞める気でいたので、ちょうどいいと思い、私がやると名乗り出ました。

 大学の先生たちに協力してもらいましたが、文字を統一する「正書法」のことを問われ苦労しました。校正では、裏技で新聞社の人たちに協力してもらったところ、早くて間違いがない。社長からは語彙(ごい)の選定はお前がやれと言われ、工夫して25万語から5万語を選んで組みました。当時は郵便番号ができたころで、辞典に付録としてつけるために郵政大臣に掛け合って実現させました。

 結局1年で、実質的には10カ月で完成させました。一生懸命やっていたら、編集部の態度が変わってきて、終盤はみんなが手伝ってくれました。新社長に恥をかかせたくないという思いと、会社への忠誠心。あとは、青森生まれの「じょっぱり」で、最後までやり遂げる気持ちもありました。

読者の需要に応え生き抜く

―広い出版ジャンルの中で、どんな本を作りたいのでしょう。

 とにかく売れる本が作りたかったです。売れないとつまらないし、売れる本とは何かをひたすら考え続けていました。当時は黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』が売れていた時代で、本をテレビのワイドショーが取り上げて紹介していました。これだと思いましたね。新聞広告をたくさん打てる会社ではありませんでしたから。

 そこでエンターテインメントの新書シリーズ『ラクダブックス』を立ち上げ、第1弾は競輪選手の中野浩一さんの『気分はいつもブッチギリ―自分へのチャレンジなくしてトップはない』、第2弾は和田アキ子さんの『和田アキ子だ 文句あっか!』を出しました。中野さんの本は社内では「競輪場で売るのか?売れないよ」と冷ややかでしたが、結局10万部近く売れました。世界一を取った男は何かを持っている、という思いは読者に届きました。和田さんの本はわずか3カ月で100万部も売れるなど、時の人、何かを持っている人のシリーズはうまくいきました。

▼コンビニに販路

―出版業界は非常に厳しい時代ですね。

 販売金額は1996年の2兆6千億円をピークに下降線をたどり、昨年は1兆7千億円。16年間で9千億円が消失しました。書店さんの数もピーク時の3万店から1万5千店まで半減しています。売り場面積はナショナルチェーン店の大規模出店があるので、それほど減ってはいないのですが。

 当社とすれば50〜60坪(165〜198平方メートル)の「まちの書店」の数が多いほどいい。辞典や実用書などは各店で1冊ずつ置いてくれますから。読者と出版社をつなぐ出会いの窓口である、まちの書店が半減したのは寂しい限りです。販路として急速に伸びてきたのがコンビニエンスストア。当社で言えば、雑誌やコミックスの9割近くがコンビニです。

―電子書籍やネット配信なども参入しています。勝ち抜くための戦略は?

 電子書籍元年の2010年は全体で年間650億円の売り上げがありました。11年は携帯電話からスマートフォンに移行し、いわゆるガラケー向けの市場が縮小したため、売り上げが630億円に落ち込みましたが、12年は760億円まで伸長しました。活字離れが言われている昨今ですが、傾向として電子書籍で読む人は年々増えていくと思います。

▼コンテンツ生かす

 当社はゲームを扱っていません。出版社とは別の商売だと思います。ただ、当社にはコンテンツやキャラクターはあります。漫画をつくっていますからね。自社の商品をこれからどう売っていくか。マーチャンダイジング(商品政策、商品化計画)ですよね。出版社の場合は、売れる企画さえ創出できれば、紙で出そうが電子で出そうが、あとは方法論の問題ですからね。

―売れる本を出すためには、コンテンツが大事だと思いますが、どう考えていますか。

 若いころから「売れるものって何だろう」という議論をし切れないぐらいしてきました。浮かんだ言葉が7つあります。新規性・斬新さの「新」、創出・創造の「創」、知的欲求を満たす「知」、有名な著者かという「名」、奇想天外さがある「奇」、テーマの珍しさを示す「珍」。未来、未知の「未」。企画会議の際に、企画書の中に7つのキーワードが何個入っているかを数え、採用の可否を判断しています。今の出版業界は売れている本しか売れず、売れない本は全く売れません。読者は売れていない本は読んでも意味がないので買わないという傾向にあります。

 書籍も漫画もニュースもそうですが、結局はストーリー性があり、読む人を感動させる作品や記事、元気が出てくる文章が求められています。無から有を生み出す作業の中で、読者の需要にきちんと応えていくことが、われわれ業界の生き残っていく道、未来につながっているのだと思います。

(聞き手=東奥日報社取締役東京支社長兼大阪支社長・鳴海成二)

 ◇

大波に明確な方策で対処/東京支社長の視点

 仕事を成就する突破力。売るための企画力。コンテンツへの照準。取材して、こんな印象が浮かんだ。大学時代、共に議論を闘わせていたころの思いがある。「おれの写真は、いつか後世の人間が理解してくれる」と話す仲間に対し、「いま感動させる写真が撮れなければ、30年たっても心を揺さぶる写真は撮れない」。「いま」にこだわり、「売る」ために走り続ける。

 30代のとき、トップ経営者が何を考えているか知りたくて、現パナソニックの松下幸之助氏らを取材し「トップ経営者の発想」という本を出版。共通するのは「決断すること」「責任を取ること」だと言う。トップ経営者の発想を土台に、自身が社長になった際の責任の1番目に「社員の幸せ」を挙げた。全社一丸だ。次いで「会社存続」「社会貢献」。

 出版業界の大波荒波をどう乗り切るか。所有しているコンテンツなどを新たに生かす一方、ストーリー性や感動創造など読者の需要に寄り添う。方策は明確だ。7つのキーワードに、もう一つ、時代を切り取り、切り開く「時」を加えてはどうだろう。来年が会社創立55周年、週刊漫画ゴラク創刊50周年。既に対応策があるようで楽しみだ。(鳴海成二)




写真  <会社概要>

■商号 株式会社日本文芸社

■本社所在地

〒101-8407東京都千代田区神田神保町1-7

TEL03-3294-7771

■設立 1959年1月

■代表 代表取締役社長 友田満

■資本金 4億6729万円(2012年12月末現在)

■年商 70億円(2012年12月期)

■事業内容 書籍、雑誌の出版および販売

■社員数 88人(2013年8月末現在、契約・嘱託社員含む)



日本文芸社

 創業以来55年間、日本の出版活動の中心地、東京・神田神保町で一般書、実用書、新書、コミックス、ムック、コミック雑誌、パズル雑誌など多様なジャンルの出版活動を展開。最近では翻訳書の分野にも進出。全米・カナダで130万部のベストセラーとなっている話題書『小麦は食べるな!』(邦題)を刊行。発売1カ月を待たずして既に4版を重ねている。


 
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