越知山(福井県・高さ612.8メートル)
高僧・泰澄ゆかりの霊峰/命はぐくむ豊かな自然
 
マップ 山頂近くにある越知神社。荘厳な雰囲気が広がっている=福井県越前町

 山は穏やかに、時に厳しく人々のそばにあり、古くから信仰の場となってきた。越知山は、白山(石川県)を開山し“越の大徳”と称された高僧・泰澄(たいちょう)大師が約1300年前に開き、最初に修行したとされる霊峰。標高こそ低いが、登山道はアップダウンが多く、心も体も鍛えられる。

 北陸の梅雨明けが宣言された7月の大暑の一日、地元・越前町朝日地区の住民らで作る「越知山泰澄塾」の山口賢治塾長(61)と山に入った。同町上糸生(かみいとう)の「奥糸生多目的集会施設」の横に「行者コース」の登山口があり、2時間半ほどで頂上に着く。最初は竹と杉がつくる木陰の中を進む。登山道は長年踏み固められていて歩きやすい。

 山中には泰澄ゆかりの場所が多数あり、いにしえの息吹を感じる。5合目を過ぎた所にある湧き水「独鈷水(とっこすい)」は、泰澄が独鈷という仏具で岩壁を突いたところ湧き出たという。触れると冷たくて、一口飲んで生き返る心地がした。越知山の「ヲチ」は古い言葉で「若返る」を意味し、若返りの水が湧き出る神秘的な山とのいわれもある。

 独鈷水近くにある屋根付きの休憩所で昼食をとった。休憩所や道中の看板、樹木の種類を紹介するプレートは泰澄塾や区長会など地元の団体が設置したもの。山への愛着は強い。山口塾長は「もう何回登ったか分からんけど、登る度に心が洗われる。不思議な山やね」と笑顔を見せた。

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 7合目を過ぎると美しいブナ林が広がった。息が切れるが、ヒグラシや鳥の鳴き声が耳に楽しい。雪の時期に登った際は、辺りに小さな動物の足跡がいくつもあった。命をはぐくむ豊かな自然に、日ごろの疲れが解けていく。

 登山道の脇にはいくつもの石仏が並ぶが、風雪による劣化や明治期の廃仏毀釈(きしゃく)などにより多くが壊れてしまっている。それでもなお登山者を見守る一つ一つに手を合わせて、歩を進める。

 9合目付近の急登を抜けると鳥居と越知神社が見えた。大谷義鷹宮司(84)が冬以外滞在していて、山や神社の由緒を聞くことができる。「山頂付近は昔、大勢の修行者でにぎわったと聞く。泰澄が暮らしたであろう山の空気をぜひ味わってほしい」

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 神社から10分ほど登ると、ついに登頂。頂上には奥の院があり、何とも神聖な雰囲気だ。残念ながらこの日は視界が悪かったが、晴れた日は泰澄も望んだであろう白山が見渡せる。手前には福井市の街並み、反対側には雄大な日本海も眺めることができ、ぜいたくな気分。

 来年、白山が開山1300年を迎える。白山信仰の始まりの地とされ、白山を含め越前五山の一つに数えられる越知山の空気を全身で感じて、歴史に思いをはせた。

(福井新聞社)

旅メモ越前がにミュージアム 地元の名物学ぶ
カニ漁が体験できるシミュレーター。漁船の操舵室から見える景色を再現している=越前町厨の越前がにミュージアム

 越知山行者コースの登山口(越前町上糸生)までは、JR福井駅、JR鯖江駅からともに車で約40分。登山口横に駐車場があり、自家用車かレンタカーが便利。花立峠から登る道(片道約40分)、隣の六所山から縦走する道(同2時間半)もある。越知神社まで行く車道があり、足に自信のない人も“山旅”を味わえる。体力に合わせてコースを選べるのも、越知山の魅力。

 登山口から車で約30分、越前海岸まで足を延ばすと、福井県が誇る名物・越前がにについて学べる「越前がにミュージアム」(越前町厨)がある。7月にリニューアルオープンし設備が充実。子どもから大人まで楽しめる。開館時間は午前9時から午後5時。入館料は中学生以上500円、3歳~小学生300円。

 同館の正面には、日本海を望む露天風呂が自慢の温泉施設「漁火」がある。付近には民宿が多く、宿泊地にもお勧め。