あおもり昆虫記
モノサシトンボ

 知ってしまえば、なんということはないのだが、知るまでは頭を悩ます、ということが、ままある。わたしにとって、モノサシトンボがそれに当たる。スマートなイトトンボ。腹に一定間隔の白い横縞が、物差しの目盛りのように見えるため、この名がつけられた。

 珍しくないトンボだが、わたしが初めて見たのは1980年ごろ、車力村の沼で。虫と付き合うようになってから20年以上もたっていた。珍しくない割にはなかなか目にすることができなかった、ということになる。というより、このトンボがいる所を歩いていなかった、という方が正しいのかもしれない。

 だから、初めて見た時は、かなりあわて、写真を撮り損じた。この時、正直に言うとわたしは、モノサシトンボをグンバイトンボと間違ったのだ。グンバイトンボは中部以西にしかいないため、「ムムッ、車力にいるなんて」と取り乱してしまった。グンパイとモノサシは、腹が似ているが、グンパイの足は、それこそ軍配のように平べったく、違いは一目瞭然。

 しかし、初めてモノサシトンボを見た時、図鑑で見ていたグンパイの姿があまりに強烈だったため、足の形を見極める余裕も無く、グンパイだ、と思い込んでしまったのだった。初対面で撮り損じた時は、大魚を逃したような気分になりしばらく落ち込んでいたが、その後、何回も撮影することができ、それがモノサシトンボであることを知った時、当初あわてた自分が、こっけいに思えたものだった。

 このトンボは沼や湿地の草にひっそりととまり、あまり活発には飛び回らない。薄暗い林の下の草にとまっている姿もよく見かける。沼にいる個体の模様は美しい水色だが、林の個体は黄色っぽい。またまたわたしは取り乱した。

 「姿はモノサシトンボと同じだが、色が違う。こんなトンボ、オレの辞書にはないぞ」と。で、汗だくになって林の個体を追いかけ撮影したが、調べてみると、なんということはない。羽化したての時は黄色っぽいが、成熟すると紋が水色になる、というただそれだけの話。林の中にひっそり止まっている淡褐色の個体は、未成熟個体だったのだ。

 知る前の興奮も、知ってしまえば「なあんだ」。が、この知る前の興奮をいつも大切にしていきたいと思っている。

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