あおもり昆虫記
ルリイトトンボ

 八甲田の谷地温泉から蔦温泉に向う途中のトンネルを抜けると、すぐ右側に登山口がある。赤沼を経由して南八甲田の赤倉岳に登るときは、ここから登り始める。猿倉温泉から旧道を歩き、途中から矢櫃沢を渡り赤倉岳に登るルートもあるが、赤沼経由で登る人の方が多い。

 1990年6月24日、わたしは赤沼口から赤倉岳に登った。赤沼までは約30分の道のり。昔、林道に使われていたらしく、道順は広く、勾配もゆるやか。掛齢200年はあろうかというブナの巨木の間を縫っていく道は気持ちがいい。木もれ日がやさしい。

 赤沼の手前で鮮やかな瑠璃色が目に飛び込んできた。この企画のキイトトンボの項で「黄色いツマヨウジが飛んでいるみたい」と表現したが、まさにそんな感じ。“瑠璃色のツマヨウジ”が、地上低く乱れ飛んでいた。

 頭の回転が鈍いわたしは、30分の1秒ぐらいの間をおいて、イトトンボが飛んでいることを認識した。そして、15分の1秒ぐらいたって「なんと美しい色なんだろう。こんなトンボ見たことないぞ」と体の中を衝撃が走った。さらにおよそ1秒後、このトンボがルリイトトンボであることを確信した。図鑑や写真集でルリイトトンボを知っていたが、本物を見たのはこれが初めてだった。

 このトンボは、羽化したての若い個体は水域を離れて、近くの林地に移りしばらく生活。成熟すると雄は水辺に戻り、雌を待ち受ける。わたしは林地で見たから、あの“瑠璃色のツマヨウジ”たちはきっと若者だったのだろう。北海道には比較的普通にいるが、本州では高山地帯の湿原や沼などに生息する。しかし、産地はかなり限られている。このトンボの繁殖地を見つけたのはラッキーだった。

 しばらくトンボを見たあと、神秘的なたたずまいの赤沼を経て、赤倉岳に登った。登山道からの視界はきかず、山頂からの眺めも赤沼方向しか見えない地味な山。登山・下山中、人ひとりにも会わない静かな山旅だったが、このトンボを見つけたことで、わたしの心はいつになく弾んでいた。

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