あおもり昆虫記
オオイトトンボ

 名は体を表わす、というが、オオイトトンボ(大糸蜻蛉)の場合、名は体を表わしていない。ちっとも大きくないのだ。イトトンボとしては並みの大きさ。なぜ、オオイトトンボなのか、さっぱり分からない。

 この写真は車力村で撮影したが、カメラのファインダーをのぞいた時、その美しさに思わず「ウッ」と息をのんでしまった。連結している前が雄。黒地にブルーの紋が鮮やかだ。後ろの雌は雄ほど鮮やかでないにしても、黄緑色の紋はそれなりに美しい。このトンボが人間の理屈を超えた方法で産卵をすることを知ったのは、撮影後、しばらくしてから。それを知っていたならあの時、ずっと観察したのに…と悔やんだが、それほど悔やむのなら再度同じ場所へ行って観察すればいいものを、以後、一度も訪れていないということは、わたしに探求心が無いのか、暇が無いのか…。たぶん、前者だろう。

 さて、常識外れの産卵法とは、なんと“潜水産卵”。雄と雌が連結したまま、雌のお尻の方から水に入り、植物の茎に卵を産みながら、徐々に水に潜っていく。そして完全に潜ってからもせっせと卵を産む。トンボが水に潜ると、体表は空気で覆われる(外から見れば銀色に見える)から、すぐ酸欠になることはない、と思うが、それにしても潜水産卵の平均所要時間は約20分、時には30分以上潜っているものもいる、というからすごい。オリンピックの金メダリスト鈴木大地のバサロ泳法なんて、めでないのだ。

 そして、産卵が済むと、一気に浮上して飛び立ち、近くの植物などに静止してしばらく休み、また産卵を始める。

 オオイトトンボは、日本だけにいるトンボで、学名のうち種名はsieboldiiという。これは、ドイツ人で日本の動植物研究の黎明期に多大な功績を残したシーボルトにちなんでいる。彼はオランダの軍医として1823年から7年間と1859年から4年間の2回、長崎に滞在し、門人の協力を得ながら多くの動植物、昆虫を採集した。

 その中にオオイトトンボが入っていたのだろう。シーボルトは果たしてこのトンボの潜水産卵を見たのだろうか。そんなことを考えると楽しくなる。

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