あおもり昆虫記
クロイトトンボ

 夏が似合うトンボである。

 かんかん照りの池や沼の岸辺で、爪楊枝大のクロイトトンボが元気に飛び回っている。元気に、といっても、縄張りを守るため必死に飛んでいるのだが…。

 全国でも県内でも普通にみかけるトンボだが、あんまり細くて小さいから、昆虫に興味のない人なら視野に入らないかもしれない。が、近づいてみると、黒っぼい体にブルーの紋や白い粉をあしらった姿はなかなか粋で美しい。

 40年以上前に小学生だったころ、近所の兄貴分はわたしを十和田市の相坂養魚場によく連れて行き昆虫採集をした。門前の小僧ナントカで、わたしはそこで昆虫採集の面白さを知った。そのとき以来、虫が好きになり、今もこうして虫の文章を書いている。

 1994年の夏。同養魚場を再訪した。自分のアイデンティティーが確立された場所というのは、何年たっても行ってみたくなるものだ。前は雑然としていたが、今は公園に整備されておりびっくりした。

 当時とはかなり雰囲気が変わっていたが、沼はそのままだった。そして水辺に飛び交うクロイトトンボも当時のままだった。クロイトトンボは1年1世代。つまり、目にしたクロイトトンボはわたしが小学生のときに見たトンボから30数世代を経たものだった。そんなことを考え、悠久の時の流れに「う〜む」とうなり、妙に感動したりもした。

 子供たちが数人、自転車でやって来た。水を飲むためだ。一人が、水道の水飲み場に向かって走ったら、物知り顔の子供が「そっちじゃないよ。わき水を飲むんだよ」。みんな、わき水を飲む。かんかん照りにわき水は気持ちいいみたいだ。「冷たーい」と子供たちははしゃぐ。頭から水をかぶる子も。一人が「大腸菌がいたりして…」と言うと、どっと笑い声。このころ、県内各地で、わき水の大腸菌騒ぎが起こっていた。みんなよくニュースを知っている。わたしの子供時代と比べ、今の子の方が、はるかに社会的だ。

 子供たちが素手でトンボを採り始めた。昔の自分とだぶって見えた。夏の一日。ごく身近なセンチメンタル・ジャーニー。

>>写真はこちら

イトトンボの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

HOME