あおもり昆虫記
アオイトトンボ

 全くひょんなことから、わたしは1匹のアオイトトンボの命を奪うところをした。時は1985年の夏。場所は八甲田の毛無岱。

 この日、わたしは、オオルリボシヤンマの飛翔をカメラに収めよう、と盛んにシャッターを切りまくっていた。その合い間に、アオイトトンボの写真も撮った。県内の池や沼に普通に見られる美しいトンボだ。胸や腹部が金緑色。成熟すると金緑色の地肌の上に白い粉が生じる。これがまた、なかなか美しい。

 木道脇の池の近いところに枯れた水草の茎が突出し、そこにアオイトトンボが止まっていた。わたしは三脚を広げてカメラを構え、このトンボの写真を2−3枚撮った。体の位置が窮屈だったため、わたしは体をよじらせ態勢を整えた。その時、やや雑に体を動かしたため、気配を察したトンボは慌てて飛び立ちカメラのファインダーから姿を消した。

 と思ったら、ごく近くでカサカサと羽音が聞こえてきた。何の気なしに音のする方に目を向けた。

 想像もしなかった光景がそこに繰り広げられていた。池の周辺ににびっしり生えているモウセンゴケ。その粘液に羽がくっつき、アオイトトンボが身に突然訪れた不幸から逃れようと、必死にもがいていたのだった。ところが、もがけばもがくほど、ますますコケの粘液にくっついていく−。わたしの気配を感じたトンボが肝をつぶして逃げる方向を間違い、事もあろうに、モウセンゴケにぶつかっていったのだった。撮影後、もちろんトンボを解放してやった。

 モウセンゴケは県内の高層湿原に見られる食虫植物だ。虫を呼び込む誘引物質を出し、だまされてきた虫が、粘液にくっつき“御用”となる。コケは消化液のペプシンに近い物質を出して虫のタンパク質を分解、これを植物体に取り入れ、栄養源にする。ただし、虫を食べなくても十分生きていける。

 モウセンゴケは小さい植物だが、カメラの接写レンズを通して見るとファインダーいっぱいに広がる。その粘液は、まるで“怪獣”の触手のように目に映った。

 アオイトトンボは雌雄連結して水面上や水面、あるいは潜水して水面下の植物に産卵する。潜水時間は10分以内が多いが、32分の記録もあるというから驚きだ。

 2002年の初夏、東奥日報社写真部の若い記者が「知り合いが『金緑色に輝く細いトンボを見つけた。こんなトンボ見たことない。珍しいんじゃないか』と言っているが…」と聞きにきた。これは、アオイトトンボだ。普通にいるのだが、初めて見た人はびっくりするだろう。それほど美しいトンボだ。

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