あおもり昆虫記
ホソミオツネントンボ

 暑い日だった。太陽がじりじり照りつけ、額から汗が吹き出す。汗かきのわたしにとって必需品の“汗止め鉢巻き”を忘れてきたため、とめどもなく流れ落ちる汗をぬぐうのに忙しく、虫を探すどころではなかった。

 1988年の夏。所は十和田市の白上。わたしが子供のとき、昆虫採集によく訪れた懐かしの場所。近くの切田地区まで来たついでにちょっと寄ってみたのだった。ここへ来るたび、ほっとするような、甘酸っぱいような気持ちになる。

 汗でしみる目をしばたたかせながら、ふと足元に目をやったら水色の美しいイトトンボがひっそりと止まっていた。数あるトンボのなかでも一番の長生き者、なんと約1年間も生きるホソミオツネントンボ(細身越年塙蛤)だった。

 猛暑のなか、そこだけが心なしか涼やかで、時間が止まったような錯覚に。それほどトンボはじっと動かなかった。ぴくりとも。

 ホソミオツネントンボは夏に成虫になり、成虫のまま越冬。春になってようやく成熟し交尾・産卵。子供が成虫になる夏まで、丸1年間も成虫で過ごす。自分の子供と同時期に飛び回るトンボなんて、常識では考えられないほどの長寿ぶり。成虫で越冬するトンボはこのトンボを含めてもたった3種しかいない。他のトンボよりいかに長生きかが分かる。

 長命なのは、夏から春が訪れるまでの長期間、未熟状態が続き、卵を産む能力がないため。しかし、なぜ“大人”になるまで、そんなに長くなければならないのか、どう考えても分からない。自然界は分からないことだらけなのだ。

 春になり成熟すると、それまでの地味な茶色の体色が、鮮やかな水色に変わる。ニジマスなどの婚姻色みたいなものだ。写真のトンボも、冬越しを経験した証拠の水色。約1年間も成虫で過ごしてきた個体だ。

 3−4時間、白上地区で虫ウォッチングを楽しみ、帰ろうとしてふと見たら、トンボはまだあの場所にじっと止まっていた。年老いたトンボと猛暑。従容と死を待つ姿に見えてしかたなかった。

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