あおもり昆虫記
ミヤマアカネ

 少年たちのつくる“言葉”は、なんとも魅力的だ。直截というか本質的というか。しかも単純明瞭。いまふうにいえば「シンプル・イズ・ベスト」か。

 十和田市での少年時代。わたしは放課後や日曜日、近所の仲間と昆虫採集をするのが日課だった。毎年毎年、季節ごと季節ごとにそれぞれの採集ポイントヘ出掛けて行く。昆虫採集に飽きることを知らなかった(今でもそうだが…)。

 津軽の平野部ではそれほど見られないが、十和田市郊外では、夏になればミヤマアカネがいっぱい現れた。だれが言い出したのかは分からないが、わたしたち“少年採集団”はこのトンボを「ミソトンボ」といった。

 未熟のミヤマアカネは、体と羽の四つの紋が薄茶色をしている。この薄茶色を味噌の色に見立てたのだ。もちろん当時は、それが正しい名と思っていたが、のちに図鑑で、ミヤマアカネが正しい名であることを知ることになる。しかし、今でもミソトンボという名は、なかなかよくできた“造語”じゃないか、としみじみ思う。

 昆虫の中には「チビオオキノコムシ」(小大キノコムシの意味)などという、訳の分からない和名もある。名付けた学者のセンスを疑いたくなる。子供たちの言葉のセンスの方がよっぼどましだ。

 ミヤマアカネ。深山茜という意味だ。しかし、このトンボは深い山奥にはいない。平野から、ほんのちょっと標高が高いところにいる。だから、ミヤマアカネというよりは、ヤマスソアカネといった方がいい。でも、この名では、学者のセンスの無さを笑うことは出来ない。

 他のアカネ同様、未熟なうちは薄茶色だが、成熟すると体も羽の紋も真っ赤になる。成熟したミヤマアカネは、もはやミソトンボとは言えない。でも、子供たちの命名は、そんなところまで関知しない。子供たちにとっては、赤いミヤマアカネより薄茶色のミヤマアカネの方が、心に強く残っているのだ。大人が「ホントはこのトンボは赤いのに…」と思っても、それは浅知恵でしかない。

 夏。少年時代に遊んだ十和田市郊外に出掛けた。昔と変わらず、ミヤマアカネは水田脇を飛んでいた。なんだかうれしくなり、気が付いてみたら、ひとりでうなずいていた。

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