あおもり昆虫記
カオジロトンボ

 新種、珍種、稀種…という言葉は、ゾクゾクするような魔力を秘めた響きを持っている。知っている人なら「なあんだ」と思うような虫でも、知らない人であれば、恥も外聞も投げ捨て「わっ、わっ、新種だ!」と騒ぎ立てる。そういうものだ。夏になれば毎年、その手の話が弊社に持ち込まれる。オオツノトンボ、カマキリモドキが最たる例だ。トンボにニョッキリ長い触角2本がついたオオツノトンボ、小型トンボにカマキリのカマをつけたようなカマキリモドキは、実に面妖な風体で、初めて見る人が「新種だ、新種だ」と慌てるのも無理はない。

 支局から送られてきた原稿を社会部デスクが「どうしようか」とわたしのところに持って来る。「珍しくないヨ。新種なんてそうあるもんか」と答える。そして、これらの原稿のたいていはボツになる。

 1985年の8月下旬。30度を超える猛暑の中、北八甲田の毛無岱に行った。オオルリボシヤンマの雄姿や、モウセンゴケに捕まったドジなアオイトトンボをカメラに納め、ひと息ついたら、水草に見慣れないトンボが止まっていることに気がついた。

 アキアカネをやや小型にし、色を濃くしたようなトンボ。アキアカネの異常型、と思い何気なくカメラを向けた。シャッターを押す前、このトンボは、本物のアキアカネに追い払われた。

 が、幸いそのトンボは場所を移し再び静かに止まった。とりあえず1回シャッターを切り、念のために採集した。手に取ってみて驚いた。顔が白、胸の模様は見たことがなく、腹の背には黄色の点がひとつ−。それまでまったく見たことがないトンボだった。柄にもなく「新種」という二文字が頭の中をよぎった。

 家に帰り、トンボの図鑑をめくった。この図鑑のトンボ科の記載は55ページある。ページを繰っていったが、それらしきトンボはない。いくらページを繰ってもない。「ややや、やっぱり新種か?」。胸が高鳴ってきた。息苦しくなってきた。が、あった。最後5ページのところに。カオジロトンボ。幼虫はミズゴケ湿原という特殊な水域でしか育たないとのことで、青森県では八甲田にしかいないという。

 やっぱり、新種なんてそうあるもんじゃない。いつもわたしが、同僚記者に言っている言葉を思い出した。

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