あおもり昆虫記
ノシメトンボ

 子供たちは、独特な言葉をあやつるものである。それは、虫についても言える。

 ノシメトンボ。はねの先に焦げ茶色の紋のあるアカトンボの仲間だ。わが国の赤トンボの中では最大である。子供のとき、わたしたち悪童は、このノシメトンボを「クルマトンボ」と呼んでいた。何の不思議もなくクルマトンボと呼んでいた。方言というのは、そんなものかもしれない。意識せず、自然に口をついて出てくる言葉…。

 しかし、あらためて考えてみると、なぜクルマトンボと言っていたのかわからなくなる。首をかしげたくなる。かざぐるまに見立てたのだろうか。かざぐるまの中には、羽の先端に模様がついているものがある(恐山の賽の河原でよく見かける)。ノシメトンボの羽をかざぐるまの羽に見立ててクルマトンボと呼んだのだろうか。だとすると、子供たちの発想は、なかなか大したものだ。頭が硬直化してしまっている大人には、とうていこのような柔軟な発想はできない。

 わたしが、このトンボをクルマトンボと呼ぶことを知ったのは十和田市で。ところが、宮城県や青森市の子供たちも似たような呼び方をしているのを知って、う〜んとうなってしまった。とくに青森っ子は、ハグルマトンボと呼ぶそうだ。クルマトンボの発想に、羽の「ハ」を接頭語としてくっつけたらしい。どこの子供たちも同じような目をしているようだ。

 ところで、ノシメトンボという名は、かざぐるまとは全く関係なくつけられた。語源は着物の慰斗目(のしめ)からきている。武士が礼服として、かみしもの下に着たのが慰斗目で、材質は絹。この無地の絹織物の袖の下の部分と腰のあたりに、格子縞や横縞が織り込まれている。

 確かに、ノシメトンボの腹の胸とのつけ根部分を見ると、黄色地に黒の縞模様がある。このわずかな縞模様から慰斗目を連想するとは、命名者の目はなかなかのものだ。とてつもない博識さを感じる。が、わたしは、慰斗目よりかざぐるまの発想の方がピンとくる。ノシメトンボよりクルマトンボという名の方がいい。わたしの頭は、まだ子供のレベルなんだろうか。たぶん、そうだろう。

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