あおもり昆虫記
シオカラトンボ

 身近なところからゲンゴロウがいなくなった、ホタルが、カブトムシがいなくなった、という話が、新聞やテレビをにぎわしている。

 ゲンゴロウやホタルたちほど有名人(虫?)ではないが、シオカラトンボもずいぶん数が少なくなった。かつてはあんなに多くいて、アキアカネには及ばないものの、トンボの代名詞的な存在だったシオカラトンボが−。

 こどものとき、アキアカネは捕る気にもなれなかったが、シオカラトンボは別だった。シオカラトンボを捕虫網に入れたときの興奮。そして、手でつかんだときの感触。あの力強い感触。素直に心ときめいたものだ。そのシオカラトンボが激減している−。

 聞き慣れない言葉だと思うが、「生物気象」という用語が気象庁にある。各地の気象台や測候所の職員が、タンポポの花をいつ初めて見た、セミがいつ初めて鳴いた、モンシロチョウがいつ初めて飛んだなどを毎年記録しているものだ。異常気象の年に、平年のそれと比べると異常ぶりが、妙に実感されるから面白い。

 実はシオカラトンボも、生物気象の調査対象になっている。わたしが社会部にいたとき、ちょっとしたアイデアがひらめいた。「青森地方気象台の生物気象記録の中で、シオカラトンボの欄は何年間も空白になっているに違いない。シオカラトンボの数が極端に減ってきたことの裏付けになるんじゃないかな。これを記事にすれば、かなり面白いんじゃないか」と。

 何しろここのところ、気象台職員が出没しそうな所ではシオカラトンボにはめったにお目にかかれない“はず”だから。

 わたしの指示を受けて取材した若い記者の答えにわが耳を疑った。

 記者「シオカラトンボは毎年記録されています」

 わたし「えーっ、本当?何月?どこで?」

 記者「5月に月見野霊園で、だそうです」

 わたし「なあんだ。それ、シオカラトンボじゃなくて、シオヤトンボだよ。その季節に見られるのは、シオヤトンボだけ。姿は似ているけど、まったくの別モノだよ」

 記者「????」

 虫に詳しくない人であれば、シオカラトンボとシオヤトンボを見間違ってもやむを得ない、と言えばやむを得ないことだが、調査しているところが気象庁だから、かなり問題がある観察ではある。この生物気象記録のシオカラトンボは、99.999999%間違いだと思うが、かといって、ミスと決め付ける証拠もない。

 ところでシオカラトンボの名の由来は何なんだろう。「塩辛蜻蛉」と書いてある本や辞書を見かけるが、あの茶色のイカ塩辛にこのトンボが似ているとはとうてい思えない。では、どの漢字を当てたらよいのだろう。もしかして「塩の殻」という意味ではないだろうか。雄は成熟すると体に白い粉がふく。白っぽい塩のような殻をかぶっているという意味なのではないだろうか…。正解を知りたいものだ。

 冒頭で触れたが、かつて日本を代表する中型トンボだったシオカラトンボが、なぜ激減したのだろう。その傾向は青森県だけでなく全国的だという。 生息環境が山に依存しているオニヤンマやカワトンボが昔と変わらず元気に飛び回っているのと対照的である。

 だれも言わないのでわたしが独断で言うと、その原因は、シオカラトンボは、山ではなく「都市の、あるいは都市近郊の池や水辺」に依存してきたからではないだろうか。これらの水辺は、都市開発により次々と姿を消していった。このため、シオカラトンボの生息環境が急激に狭められていったのではないだろうか…。山ではなく、人に依存してきたシオカラトンボの悲劇…。

 シオカラトンボが再び、あの雄姿を数多く見せてくれることを、願わずにはいられない。

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