あおもり昆虫記
ニイニイゼミ

 子供の時の記憶というのは、実にいいかげんなものである。わたしは以前、一人前「自分の記憶力は良い」と自負していたが(50歳を超えてからは、記憶力が著しく悪くなったのを自覚し、暗澹とした気持ちになっている)、ニイニイゼミを見て、いっペんにその自信が崩れた。

 1987年の7月、知人のOさんの友人Kさんのリンゴ園を訪れた。目的はニイニイゼミの写真を撮るためだった。あることでニイニイゼミの写真が必要になったものの、わたしはそれまでニイニイゼミの写真を撮っていなかったのだ。

 夏のセミとしては、真っ先に姿を現わすニイニイゼミは、リンゴ園で盛んに鳴いていた。ジーッと頭のてっペんから出るような高い声である。

 リンゴ樹の幹や技で鳴く二イニイゼミ。体の色が樹皮そっくりで、なかなか見つけにくい。その時、これはおかしいぞ、と思った。

 「子供の時に見た二イニイゼミの色の記憶は焦げ茶色。しかし、ここのセミは灰緑色。なぜなんだ」と。

 子供の時の記憶を信じていたわたしは、ここのセミはきっとボルドー液をかぶったため、リンゴの樹皮と同じ色をしているに違いない、と想像をたくましくし、数日後、捕虫綱を持って推測を確かめるべく再びリンゴ園を訪れた。セミを捕え指で体をこすると、きっとボルドー液がとれ、濃げ茶色が出てくるに違いない、と浅知恵を働かせたわけだ。真面目にそう考えた。

 そして網にセミを入れた。体を指でこすった。ところがいくらこすっても体の色は灰緑色。ボルドー液なんてついていなかったのだ。セミの色は最初から灰緑色だったのである。なんて子供の時の記憶はいいかげんなんだろうか。なんて自分の記憶力は悪いんだろうか。わたしは少しショックだった。そして、ボルドー液がついているのでは、と勝手に想像しそれをわぎわぎ確かめに来た自分の滑稽さを笑った。

 しばらくニイニイゼミの声を聴いていなかったが、2002年7月、2回聴いた。1回目は青森市の自宅近くの電信柱。自宅近くでニイニイゼミの声を聴いたのは初めてだった。2回目はその翌日。夕方、青森市内の蕎麦屋に行ったら、店の前の街路樹にニイニイゼミが止まって「ジージー」鳴いていた。つい童心にかえり、捕獲を試み、素手で捕まえることに成功した。そして、セミをじっくり見た。やっぱり灰緑色の体だった。けっして焦げ茶色ではなかった。

 芭蕉が山形県の立石寺で詠んだ有名な句「しづかさや岩にしみ入る蝉のこゑ」の蝉は、ニイニイゼミのことである。歌人斎藤茂吉は、アブラゼミだ、と言いはってひんしゅくを買ったエピソードがある。

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