あおもり昆虫記
アブラゼミ

 多分、小学6年の時だった、と思う。父に連れられ、板柳町(父の生家は板柳町にある)のリンゴ園を訪れたことがある。その時目にした光景が強烈に脳裏に焼き、いまでも鮮やかによみがえる。

 木という木にアブラゼミがとまって鳴き、園地全体が「わんわんわん」と訳の分からない騒音に覆われている。わたしが園地に足を踏み入れると、危険を感じたセミが一斉に飛び立つ。慌てふためくセミがあちこちで空中衝突するほどの数の多さだった。

 それまで、わたしは、こんなにもセミがいる光景を見たことがなかった。こんなに高い密度で生息しているとは知らなかった。だから、その時の驚きぶりは、相当なものだった。

 が、それ以降はアブラゼミとは不思議に緑が無かった。声は飽きるほど耳にするのだが、姿を見ない。というより、姿を見る気にならなかった、という方が正しい。あまりに普通すぎたからだ。その結果、わたしの写真コレクションにアブラゼミが入っていない珍現象が起こった。

 で、1987年7月中旬、アブラゼミの撮影のため、弘前市のリンゴ園に車を走らせた。暑い日だった。

 全開にした窓から生ぬるい風に乗ってセミの声が聞こえてきた。弘前市小友地区。車を降りて園地に立ってみた。いる、いる。幹に、枝に、リンゴの袋にもセミがとまっている。それらが大合唱するものだから、やかましさったらない。

 園地を歩いてみた。セミは慌てて飛び立つ。わたしにおしっこをかけながら飛び立つ。やみくもに飛び立つから、空中でセミ同士が正面衝突する。26年前と全く同じ光景−。4半世紀の時間空間がいっペんに取り払われた。板柳町で大群のアブラゼミを見たのは、ついきのうのことだったのだろうか…。

 混乱、錯綜、炎天下、そして気が滅入るぐらいのセミの声。

 アブラゼミにはもう一つ思い出がある。小学生の時、当時、子供たちのだれもがやっていたようにセミの穴に麦わらを突っ込み幼虫を捕えた。部屋に置いていたら夕方、予告無しに羽化した。全身が透き通るような水色一色。普段見る姿とはあまりに違う妖艶なまでの美しさ。腰を抜かしたわたしは、この“事件”を一刻も早く母に知らせよう、と部屋を駆け出した。

 ところで、アブラゼミの名の由来は、鳴き声が「ジリジリジリ」という、油で揚げたり、いためたりするときの音に似ているから、という説と、羽が透き通らず油紙のようだからという説がある。両方によるかもしれない。はっきりしたことは分からない。リンゴ園やナシ園に多く、幼虫は土の中に6−7年も暮らしている。

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