あおもり昆虫記
コエゾゼミ

 アブラゼミのジリジリジリという鳴き声と、エゾゼミのギーという鳴き声の中間のようにジーと鳴く。といっても読者はピンとこないだろう。鳴き声を文字で表現するのは非常に難しい。不可能に近い。

 山地のブナ林にすむセミである。

 1997年夏、取材のため白神山地にかなりの日数入った。耳にしたセミの声はコエゾゼミがほとんどだった。いつもであればミンミンゼミが多いのだが、同年はどういうわけかコエゾゼミがやたら多かった。虫好きの友人にそのことを言ったら、彼も「今年はコエゾゼミが多いなあ、と思っていたんだ」と不思議がっていた。

 これは極端なケースだが、山地のブナ林に多くいることに変わりない。

 コエゾゼミは、名の通り、エゾゼミに非常によく似た小さなセミだ。そして、鳴き声が特徴的だ。声色が特徴的なのではない。非常にうるさいのだ。高音で、しかもでかい声で鳴くのである。あの小さな体からは想像もつかないほどでかい声で鳴く。

 コエゾゼミにまつわるでかい声の思い出3件を以下に紹介する。

 1995年8月。北八甲田の後藤伍長銅像を見に行ったときのこと。遊歩道の両脇で、「冗談だろう」と思うくらいけたたましくでかい声で鳴いているセミがいた。見るとコエゾゼミ。鳴いている姿を見ても、なお信じられないほどの大声だった。

 1999年8月。この年の一番暑い日、わたしは新郷村の十和利山から三ツ岳を縦走した。登山口の迷ケ平。立っているだけで汗が滝のように流れる。歩き始めた。周囲はコエゾゼミの蝉時雨。1匹だけでも十分うるさいのに“時雨”とあってはたまらない。耳元で「ジー」とデカ声で鳴き続ける。暑さで頭が変になっているときに、デカ声。同行者が我慢しきれず「うるさい!」とセミに怒った。が、セミに通じるわけがなく、鳴き続けた。

 1997年7月下旬、白神山地の摩須賀岳に、ノロの沢の沼経由で登った。赤石川をさかのぼり、さらに滝を登り、薮をこぎ、揚げ句の果て迷い(といってももともと道は無いが)、5時間彷徨しやっとノロの沼に着いた。

 神秘的な山上湖。以前から見たいと思っていたあこがれの沼のほとりに立っていたら、コエゾゼミが静寂を破った。たった1匹。しかし、その声は広い沼一円に響き渡るすさまじいものだった。1匹のコエゾゼミの声。山行が厳しかったため、その声は印象的だった。多分、わたしにとって一生忘れられないセミの声だろう。

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