あおもり昆虫記
フタモンアシナガバチ

 1993年7月、はずみで家を建てた。人から話を開くと、家というものは、熟考を重ねた結果出来るもの、というよりは、はずみとか成り行きとか、まあそんなもので建つものらしい。

 庭に一切手を加えず、なすがままにしておく。そして、庭に勝手に生える植物の遷移を楽しむ。そんなささやかな夢を持っていた。学生時代、K教授の家に遊びに行ったとき、自然に任せた庭を見てとても気に入り、いつかは自分もやってみたい、と20年間以上もひそかに思っていた。

 実現しない夢、とあきらめていたが、突然家が建つことになり、“庭”が急に現実みを帯びてきた。しかし、敷地40坪の小さな家。わたしの自由になる“庭”は2.5坪しか確保できなかったが、それで十分。煉瓦片で、庭というか野草園というか放任園を仕切り、どんな植生になってどんな虫が訪れるのだろう、と思いを巡らし、一人しずかにむふふ、と笑った。1冊のノートを用意し、生えてくる植物や訪れる虫を記録していった。

 最初に現れた植物はスギナ、エノコログサ、イヌビエ、オオイヌタデ、ギシギシなどどこにでもあるものが優占種(2002年現在は、ヨモギとヨシが二大勢力。10年の間に植生は初年度とずいぶん変わったものだ)。植物が生い茂るにつれ、虫たちも姿を見せるようになった。

 なかでも、一番の常連はフタモンアシナガバチだった。1993年8月24日から11月4日まで雨の日以外、毎日のように飛来、オオイヌタデの花粉を食べたり、えさを求めて盛んにパトロールしていた。

 感心するほど毎日のように訪れる働き者。わたしの家族のようなもので、たまに来ないと「どうしたのだろう」と心配になる。ガの幼虫を捕らえ、子供たちの食料に、と肉団子をつくっているところも観察できた。それが、この写真だ。

 このハチは、家の付近で最も普通に見られるアシナガバチの一つ。日本産アシナガバチの中では最大の巣を造り、育児室が1000個以上になることもあるという。

 とんでもなく大きな家を造るハチが、小さなわたしの家に毎日のように遊びに来てくれたのが、なんとなくおかしかった。しかし、翌年からは、さっぱり訪れなくなった。ヨモギが優先種になるにつれ、このハチがお好みの虫(餌として)がいなくなったからではないだろうか、と思っている。それとも、小さすぎる庭に愛想を尽かしたのだろうか。

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