あおもり昆虫記
オオマルハナバチ

 1988年の5月中旬。友人のN、東奥日報のカメラマン、そしてわたしの3人は、白神山地赤石川源流部の雪の上に張ったテントの中に閉じ込められていた。

 ブナの芽吹きを新聞にカラー写真で紹介する取材のっため山に入った3人。3泊4日の日程だったが、4日のうち3日までもが雨に見舞われるという不運。最初の丸2日は、激しい雨のため、一歩も外に出ることができなかった。テントの下は厚い雪だから、冷たさがジンジン伝わってくる。この冷たさに耐えながら、食っちゃ寝、食っちゃ寝を繰り返し、飽きもせず同じ内容のバカ話を何十回となくして、ひたすら晴れるのを待った。

 3日目。赤石川源流部に、ようやく陽が差した。カメラマンは撮影の準備に忙しく、Nとわたしは、白神の春を体内に吸収しよう、と川原に寝ころび、優しいたたずまいをぼんやりと眺める。

 虫たちも太陽を待っていた。目の前のフキノトウの蜜を吸いに、毛むくじゃらのオオマルハナバチが飛んできた。高い山に生育している植物の授粉役として重要な役目を担っている。

 このハチは、ミツバチと同じように社会生活をする。巣は、ノネズミなどの空巣を利用して地中につくる。巣にはつぼ状の独房をつくり、そこに花粉や蜜をたくわえ幼虫を育てる。女王は夏までに働きバチを育て、秋になると新しい女王をつくる。新女王は交尾したあと、独りで地中のすき間に入って長い冬を越す。わたしの目の前に姿を見せたのは、この女王だったのだ。

 どうやら一日中晴れそうだ。やっと仕事ができるぞ。張り切る3人。その前に腹ごしらえだ。たき火に大なべをかけ、そうめんをごっそりゆでる。薬味はフキノトウの葉。あくを抜いたあと、みじん切りにする。はしでめんをすくい、雪解け水の源流にさらす。キリリと冷えたところで、つゆをつけ、つるつる。さわやかなのどごし、口中に広がる薬味の芳香。究極のグルメ。一生忘れられない春の味−。

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