あおもり昆虫記
エゾアカヤマアリ

 毎日、飽きるほど見ているクロヤマアリには、わたしは何の感情も持たないが、このエゾアカヤマアリを見ると、どことなく身構える。なぜだろう。

 このアリを初めて見たのは小学生のときだったから、ずいぶん昔の話だ。十和田市の官庁街には松が植えられ(今でも松はあるが、昔は今のように太くはなかった)、その根元には必ずといっていいほどエゾアカヤマアリが巣をつくっていた。葉などを集めてつくる巣は、地面から盛り上がって見えた。

 子供心に、「アリがこんなにいっぱい松の木の根元にいれば、松の木にとってよろしくないんじゃないかな。そのうち、松の木は枯れ、地球上の樹木はこのアリのおかげで全滅するんじゃないだろうか」と恐怖心を募らせ、巣を見ると、足で踏んづけて壊したものだった。「地球防衛軍」になったつもりだった。鼻穴を膨らませ、巣の破壊工作をしたものだった。が、アリはそんな妨害なんてメじゃない。次の日に見ると、巣はちゃんと元通りになっている。

 頭にきたわたしは、悪ガキと謀って「害虫退治だあ」と叫び、2B弾(極小火薬おもちゃ)を巣にぶち込んだ。バァーンと2B弾が爆発すれば、巣は見事なまでに吹き飛んだ。巣を破壊された無数のアリたちは、慌てふためきワラワラとうごめいている。

 考えてみれば残酷な遊びだった。しかし、公共の福祉を気取った遊びも、アリたちには全く効果がなかった。2B弾を束にして強力バクダンを仕掛けても、翌日には元通りになっている、というたくましさにわたしは根負けしてしまった。いや、単に飽きたのかもしれない。

 忘れられないのは、このエゾアカヤマアリが非常に気性が荒く、攻撃性の強いアリだということだった。わたしが巣を踏んづけると小さいくせに集団となって激しく向かってくる。ペンチのように発達した大あごを目一杯広げて立ち向かう。いくら小さいとはいえ、これにはいささかたじろぐ。加えて、蟻酸攻撃。アリたちがお尻から発射する蟻酸で長靴が濡れてしまう。ド迫力だ。

 わたしが40年間以上、このアリを見ると身構えるのは、これらかすかな恐怖と、このアリに対し殺戮の限りを尽くしたかすかな後ろめたさからくるのではないだろうか。今にしてそう思う。いま、この文を書いて、初めて自分の気持ちが整理されたような気がする。これまでは、そんなことをじっくり考える余裕がなかった。

 他の昆虫を襲って巣に引きずり込んで餌にするなど、気性が荒く攻撃的な性質を利用して、ヨーロッパでは、害虫防除にこのアリを使ったことがあるという。

 こんな話もある。昭和30年代、アメリカで「アリ入りチョコレート」が流行した。なぜ、そのようなお菓子が発明されたのかはさっぱり分からないが、30年代前半、このエゾアカヤマアリが「アリ入りチョコレート」の原料として輸出されたことがある。大量捕獲によって、ひところは少なくなった、という報告もされている。

 1990年ごろの初夏、わたしは青森市の森林公園にカメラを持って出掛けた。カシワの若葉にアブラムシがびっしり付着していた。そのアブラムシが排泄する蜜をなめるため、エゾアカヤマアリが群がっていた。「いつもは、喧嘩っ早く気性の荒いアリだが、蜜をなめるなどヤワなところもあるんじゃないか」と面白がってカメラを向けた。が、次に展開された光景は、わたしの想像を著しく超えたものだった。

 カメラを向けられ異常を察知したアリたちは、一斉にわたしの方向に向かい、口を大きく開け大あごを誇示し威嚇態勢に入ったのだ。これだけでも驚くのに十分値するが、さらに、尻の先を足の間から出し、蟻酸を一斉に放射したのである。これには仰天した。幸い、蟻酸はわたしのカメラまでは届かなかったが、ファインダー越しに、蟻酸が飛んでくる軌跡がはっきり見えた。わたしは激しく興奮した。

 「このアリは、すごい!」

 この一件から、わたしはエゾアカヤマアリを見るとさらに身構えるようになった。

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