あおもり昆虫記
ヒメアカタテハ

 よく見かける人だが、考えてみればどこのどんな人なのか、全く分からない、という場合がある。もっと極端な例では、職場の同僚でも、友達や恋人がいるのかいないのか、趣味は何なのか、酒を飲むのか、姓・名はなんというのか−など分からないことだらけなのに、毎日顔を合わせている、という“なぞの人物”もいる。

 肝心のところがなにも分からない−ヒメアカタテハは、そんなチョウだ。オーストラリア以外、全世界に分布する万国共通種といわれ、青森県でも秋になればよく見かける普通のチョウなのに…。

 何が“なぞ”か、というと、どこでどのように越冬しているのか、さっぱり分からないのだ。チョウ研究家は、珍しいチョウになれば、日の色を変えて調べ尽くすが、普通種になれば途端に興味を失うらしく、スズメ同様(スズメの詳しい生態は、本当に謎。数が極めて少ない天然記念物クマゲラの方が何倍も詳しく調べられている)、普通のチョウもあまり調べられていない。普通になるほど空白になる、という逆転現象がある。

 英名で“おめかしをした貴婦人”(Painted Lady)と親しまれているヒメアカタテハは9、10月、青森県内のあちこちで飛んでいる。が、春や夏にはほとんど見られない。どうやら、この現象は青森県だけでなく、岩手県や長野県でもそうらしいのだ。つまり、中部以北では、このチョウは越冬出来ないらしいのだ。

 日本の南で冬を越し、生息域を広げながら中部、関東、東北、北海道へと移動したものの、寒い所では越冬できず死滅する、という行動を繰り返しているのだろう、と推測されているが、詳しいことは分かっていない。この強い移動力があるから、ほぼ全世界に分布しているのだろう。欧州、北米では大移動するチョウとして知られる。寒冷地では越冬できないため、集団大移動するのだろう。が、日本ではこのチョウの集団移動の話は聞いたことがない。

 青森県で秋に見るヒメアカタテハは、どこからか北上してきた越冬個体の第2世代か、第3世代とみられるが、では、第1世代はどこでどういうステージ(卵か、幼虫か、蛹か)で冬を越しているのだろう、となるとこれも分からない。

 身近にある“普通のなぞ”“普通の空白”に目を向けて掘り下げるのが新聞の、新聞記者の役目の一つではないか、と時々自戒するが、どうやらわたしは思うだけで、行動にあらわれていないらしい。

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