あおもり昆虫記
アカタテハ

 アカタテハ(赤立羽)を見ると、いつも、弘前高校で生物を教えていた故鈴木正雄先生を思い出す。

 アカタテハの幼虫の食草は、イラクサ科のアカソ。先生のあだ名も「あかそ」。先生はこのあだ名が気に入っていたらしく、出版した本のタイトルが「あかそ随筆」。わたしはその続編を持っているが、「謹呈あかそ」と自筆のサインが入っている。

 アカソに関係したからこのあだ名がついた、と今までごく単純に思っていた。しかし、不肖の教え子だったわたしは、それ以上のことは知らない。そこで同校生物部で一緒だった同級生のTに電話をかけて聞いてみた。

 それによると、戦時中、旧制弘前中学で教鞭をとられていた先生は、物資不足に対処するため、アカソの繊維で服をつくろう、と思い立った。そこで生徒たちに「アカソを採って来い」とやかましく命令した。このため生徒たちは先生を「あかそ」と“命名”した、という。アカソでつくった服をもらった人もいるとか。それがどのような出来ばえだったのか、わたしの想像力では、とても頭に描くことはできない。が、先生の発想、行動力は偉大である。

 あだ名は、先生自らサインしているように「あかそ」が正しい。しかし、わたしたち生徒は、だれ一人として「あかそ」なんて言わなかった。みんなは津軽弁なまりでこう言った。「あがそ」と。この濁点が無ければ、どうも気分が出ない。濁点がついて初めて、先生のとぼけた表情や語り口が蘇る。

 さて、アカタテハは、わたしの好きなチョウの一つだ。日本全国で見られ珍しくもないが、それほど多くもなく変哲がない。しかし、礫のような勇壮で敏捷な飛び方は、わたしの心をひきつける。要するに格好が良いのだ。

 欧州や北米にいるアカタテハの近似種は「Red Admiral」と呼ばれている。訳せば「紅の海軍大将」。このチョウを実に適確に表現している。アカタテハという和名よりはるかに優れている。その見事な表現力に思わず拍手を送りたくなる。

 1994年の6月下旬。小泊村の林道脇のアカソ群落にアカタテハが数匹飛んでいた。アカタテハの群舞は珍しい。よく見ると、古い個体が1匹、新しい個体が5−6匹いた。古い個体は多分、1年前に羽化したもので、新しい個体はこの初夏に生まれたものだろう。新旧のチョウが入り交じって飛ぶ光景に素朴に感動した。

 そして、随分長生きするチョウなんだなあ、と驚いた。古い個体は羽がぼろぼろになっていたが、凛とした雰囲気があった。さしずめ、背筋を伸ばした“退役軍人”のイメージだった。

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