あおもり昆虫記
クジャクチョウ

 生物には、各国それぞれ独自の名前がついている。例えばクジャクチョウ。これは日本でしか通用しない名前だ。生物学では「和名」といっている。しかし、それでは国が違うと意味が通じなくなる。

 が、そこはよくしたもので、万国共通の名前が生物につけられている。属名と種名。1700年代後半、スエーデンの博物学者リンネが考え出した命名法だ。日本では俗に学名とも呼ばれている。学名は普通、ラテン語をもじって書かれる。学名の意味を知ろう、とわたしはラテン語辞典を買ってしまった。めったにやらないパチンコで得たお金で衝動買いしたのだった。

 クジャクチョウの学名は、Nymphalis io geishaとなっている。上から属名、種名、亜種名。意味を調べてみると実に面白い。まず属名のNymphalisは文字通りニンフ(妖精)の意味。種名のioはギリシャ神話に由来する。アルゴスの最初の王イナチウスの娘イオは、ジュピター大神に愛されたためジュノ女神の嫉妬を買い牝牛の姿にさせられてしまった。牝牛の姿で遠い異国をさまよいやつれ果てたイオ。ある朝、太陽が昇る時に目覚めたイオのひざもとから羽化したばかりの1匹のチョウが舞い立った。イオの大粒の涙はその羽の上にこぼれた。

 それ以来、クジャクチョウの羽には、涙の跡が真珠のように光るようになったという。写真のチョウの目玉模様が涙の跡というわけだ。なんともセンチメンタルな話ではある。しかし、亜種名のgeishaは日本の芸者の意味。ニンフ−ギリシャ神話のイオ−芸者。支離滅裂な命名じゃないか! 

 だが、待てよ。よく見ると、目玉模様の周りには青い色が散りばめられている。これは、見方によっては“アイシャドウ”にも見える。妖艶な感じの斑紋は、芸者の名を当てられても違和感がないんじゃないか、とも思う。また、百聞は一見に如かず。このチョウを見れば、納得できる。真っ赤な地色にクジャクの羽根のような目玉模様。派手なことこのうえない。命名者がきらびやかな芸者を連想して名をつけたとしても、ちっとも不思議じゃないいでたちだ。

 派手な色のチョウは、ほとんどが南方系だが、このチョウは北方系で例外的存在。関東以西では珍チョウらしいが、寒い青森県では普通に見られ、成虫のまま越冬、春真っ先にに姿を現わす。

 ふつう、成虫で越冬するチョウは、春になると羽が気の毒なくらいぼろぼろになったり色がさめたりするが、このクジャクチョウは、春に見てもそれほど崩れた感じがしないのが不思議だ。いつの季節にも、妖艶な雰囲気を漂わせ飛び回っている。

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