あおもり昆虫記
サカハチチョウ

 多くの人もそうだと思うが、わたしも早とちりの傾向がある。いちど誤って覚えるといつまでも、それが正しいと思い込んでしまう。単なるケアレスミスが、何年も尾を引くのだから恐ろしい話だ。気をつけなければ、とたまに気を引き締めるのだが、こりもせず似たようなケアレスミスを繰り返す。それが人間なのかもしれない。

 サカハチチョウ(逆八蝶)。羽の一番目立つ模様が、漢字の「八」の逆向きだから、この名がついた。

 ところがわたしは、小学校低学年の時から、なんと大学生のころまでの長い間、このチョウの名をサカハチョウと思い込んでいたのだ。

 理由は簡単。図鑑を見て、サカハチチョウの「チ」を一つ見落としてチョウの名を覚えたためだった。さらにごていねいにも「カタカナの『ハ』の字を逆にした模様のチョウなんだな」と誤解の理論武装までして「うむ、なるほど」と妙に納得したものだった。いちど納得すると、ちょっとやそっとでは思い込みを変えることはできない。

 漢字の「八」とカタカナの「ハ」。この極めて似た形の字が長い間、わたしを誤解の世界にとどめておいた。大学時代、ふとしたきっかけで、このチョウの名は、「チ」がもう一つ多かったことを知り、がく然とした。そして「これまで、他人にサカハチョウと1回も言ったことないよな」と自分に言い聞かせ、冷や汗をかきながら胸をなでおろしたりもした。

 それにしても、初めてこのチョウの名を知って以来、何度となく図鑑などでこのチョウの名を活字で見てきたはずなのに気がつかなかったとは…。思い込みとは、本当に恐しいものだ。

 ところでこのチョウは、春型と夏型とでは模様が全然違う。写真は春型。まるで地図のような模様だ。ところが夏型になると地色は黒一色になり、春型に橙色だった逆八模様は、クリーム色になり、ぐっと太くなる。

 知らない人が見ると全く別種のチョウに見えるはずだ。学者ですらかなり昔、春型と夏型を別々の種として取り扱ったこともあるほどだ。幼虫時代の気温によって春型と夏型に分かれる、という説があるが、はっきりしたことは分かっていない。

 このチョウは産卵行動が面白い。母チョウは、食草の裏に産みつけた卵の上に次の卵、その上にまた次の卵という具合に、ダルマ落としのように数個を重ねて産みつける。あとから産みつけられたほうから、順に羽化しなければならない。しかし、中には順番を待ちきれず卵の側面を破って出てくるものもある。なぜ、卵を“だるま落とし”のように産みつけるのだろう。チョウにはそれなりの理由を持っているのだろうが、人間には分からない。

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