あおもり昆虫記
コミスジ

 1987年の夏、わたしは気が狂いそうになるほど忙しかった。米価をめぐる騒ぎの取材が一段落したころ、東奥日報社の出版部から「これから出版する『暮らしの歳時記』に虫の話を書いて欲しい」という依頼があったからだ。虫の数は100種類、それぞれカラースライドの写真付き。1種頬の虫につき文章は400百字詰原稿用紙で2枚半〜3枚。季節ごとに序文も書かなければならないから、合計すれば、何と四百字詰で300枚! しかも締切は8月末。猶予期間は2カ月もない。

 さらに悪いことには8月中旬から3週間、米国へ農業取材に行かなければならないことになっていた。が、わたしは、この仕事を引き受けた。理由は一つ。虫の話を書きたかったからだ。その結果、日常の取材を一生懸命やりながら、虫の原稿書きもこなさなければならないという超人的な生活をしなければならなくなった。

 そして米国に原稿用紙の束を持って行き、毎晩午前1時ごろまでホテルで虫の原稿書きをするはめになった。

 長年続けてきた虫の撮影で、かなりの写真を集めたつもりだったが、100匹の虫を選んでみたら、写真が無い虫や使用に耐えない写真があることに気付いた。これを補うため、米国へ行く前、集中的に野山へ行き、欠落している虫の写真撮影に努めた。

 コミスジもその一つだった。普通にいるチョウだから、つい撮りそびれたのかもしれない。漢字で書くと小三筋。羽を広げて止まると、白い筋が漢字の「三」のように見える。前の羽と後ろの羽の白い筋が見事一本につながる。不思議だなあ、といつも思う。

 飛翔が特徴的で、ツーッ、ツーッ、とグライダーのように飛ぶ。小粋な蝶。かわいい。たまらなく好きだ。

 いつも訪れている青森市郊外の雑木林に行った。木もれ日を浴びながら小径を歩いていくと、欠木のためそこだけまぶしい夏の日差しを受けている部分があった。そこにコミスジはいた。周囲が薄暗いため、まるで蝶が太陽のスポットライトを浴びているような感じ。

 心底、美しい、と思った。と同時に、欠落写真がこれで一つ減る、と安堵の気持ちでいっぱいになった。

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