あおもり昆虫記
ミノガの仲間

 ミノムシは、人々に好意的に受け入れられている数少ない虫のひとつではないだろうか。そのユーモラスな姿は、人々の心を妙に和ませる。里山のススキの葉裏、灌木の枝先、庭木の葉裏…注意してみると、どこにでもいる。わが家は、中心市街地に近いところにあるのだが、家の外壁や塀のあちこちに、かわいい“みの”がくっついているのを見ることができる。

 そして、「こどものころ、ミノムシを見つけると、中に何が入っているんだろう、とミノを指先でむしって調べてみたよなあ。残酷な遊びだったよなあ。でも、ミノはけっこうしっかりしていて、なかなかむしることができなかったよなあ…」と思い出し、なんとなくほんわかした気持ちになる。

 愛らしくユーモラスなミノムシだが、これがミノガというガの幼虫の“家”だと知る人は少ない。

 ミノムシの生活史は風変わりだ。

 雌は成虫になってもウジ虫のような格好で一生、ミノの中で暮らす。雌がミノの中から性誘引物質を出すと、それに誘われた雄が飛んできて、ミノの先っぼの穴にお尻を差し入れ雌と交尾する。そして雌はミノの中に産卵する−。10数年前、わたしは得意になって知人に、そう説明した。

 と、意外な質問を知人から浴びせられた。「雄もミノをつくるのか」「越冬はどのようにするのか」「幼虫はふ化直後からミノをつくるのか」…。わたしは返答に窮した。あまりに基本的なことゆえ、知っていなかったのだった。

 慌てたわたしは弘前大学のA教授に電話を入れた。今度はA教授が慌てた。「急に質問されると参っちゃうよ。困るなあ」。5日後、A教授から電話が釆た。その声は、面目を保った、とでもいうような安堵に満ちたものだった。それによると…。

 ミノの中で冬を越した幼虫は、春になるとミノから首を出して葉を食べ、ミノの中で蛹になる。雄はミノから脱出して羽化、雌を探して飛び回り雌を見つけると交尾する。産卵した雌はミノの中で死に、夏にふ化した幼虫はミノから外に出て枯れ葉などで新たなミノをつくり冬を越す。

 一生、家の中から外に出ない雌−。この話を聞いた同僚記者のSさん、「人間の女とはえらい違いだな」と妙に感心したような表情を見せた。

 以前、学校で清少納言の枕草子を習った時、「ミノムシ…八月になれば『父よ父よ』とはかなげに鳴く」という一節があったのを覚えている。しかし、残念ながらミノムシは鳴かない。実は彼女、カネクタキ(コオロギの仲間の小さな虫)の鳴き声を、ミノムシの鳴き声と勘違いし、この名文を書いた、といわれている。才女清少納言のささやかなミステーク。彼女がなんだか急に身近に感じられた。

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