あおもり昆虫記
ヒメシジミ

 知人に、家の庭に山菜を植えている人がいる。「居ながらにして山菜採りをするの?」と聞いたら笑われた。「庭の山菜が何cm伸びたら○○山の△△が採りごろ、何cmになったら□□山の××がちょうどよく生育している、という目安になるんですよ」。年によって山菜の採取適期が違う。庭の山菜の生育度合を指標にすれば、確かに効率的な山菜採りができる。なるほど、と妙に感心したものだった。

 ヒメシジミを見ると、この“生物指標”が脳裏をかすめる。1987年7月はじめ、里山の自然が好きな母を連れて岩木山ろくに行った。わたしはヒメシジミの撮影が目的だったから、カメラを持って懸命にチョウを追いかけたが、母は近くに自生しているクワの木を見てはしゃいでいた。完熟したクワの実が、それこそ鈴成り。食べると、トロリと溶けるような甘さが口の中に広がった。もっとも唇は紫色に変わったが…。

 翌年も7月はじめに岩木山ろくへ行った。ところが、その年は気温の低い日が続いたせいか、ヒメシジミの姿は見えなかった。クワの実は、と見ると、まだ白い色で未熟状態だった。その翌年、またまた同じ場所に出掛けた。ヒメシジミはチラチラと低く飛び回り、クワの実は完熟。わたしの唇はまた紫色になった。

 この時に痛感した。岩木山麓のこの場所では、クワの実が完熟するころ、ヒメシジミが出現するんだな、と。

 ヒメシジミは、北海道では普通種だが、東北、関東、中部などでは産地が限られている。青森県内では下北地方に多いが、他は岩木山ろくなどで産地は少ない。出現時期も初夏だけだ。食草は、ヨモギなどキク科植物、シロツメクサなどマメ科植物など広範囲に及んでいる。

 食草が普通種で勢力が強いと、それに依存する昆虫も勢力が強いのが一般的なのに、なぜヒメシジミだけは産地が限られているのだろう。マメ科植物を食草にするルリシジミは多分、全国で最も多いチョウ。また、路傍のカタバミを食べるヤマトシジミも、青森県にはいないが、岩手県以南では超普通種だ。どこにでもある植物を食草にするヒメシジミの勢力拡張を抑えている要素は、一体何なんだろうか。不思議でならない。

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