あおもり昆虫記
カバイロシジミ

 青森県を代表するチョウは何だろう−それをテーマに取材し東奥日報夕刊1面に記事を書いたことがある。

 ヒメギフチョウなどを挙げた人が多い中で、弘前市のチョウ研究家TKさんがカバイロシジミを強く推したことが印象に強く残っている。地味なチョウで、数も少ないのに…。でも、このチョウには、ロマンがある。TKさんはこのロマンにひかれたのだろう。

 津軽海峡は、生物界ではブラキストン線といわれている。英国の学者ブラキストンが明治時代、「北海道と本州の生物分布が明らかに違う」として、津軽海峡に“生物境界線”を提唱した。これがブラキストン線だ。端的に言うと、日本では、ヒグマ、キタキツネは北海道にしか生息せず、ツキノワグマ、ホンドギツネは本州にいて北海道にはいない、という具合だ。

 しかし例外はどこの世界にもあるものだ。北海道にしかいないといわれた国の天然記念物クマゲラが白神山地など北東北で生息が確認され話題になった。このカバイロシジミもそのひとつだ。

 カバイロシジミは以前、ブラキストン線以北にしかいないチョウといわれていたが、ブラキストン線が提唱されてから約50年後の1929年、津軽半島先端の三厩村で発見され、次に1952年、同村竜飛岬で採集されてから、が然注目を集めるようになった。今では津軽半島北部と下北半島西部の海岸線に生息することが確認されている。

 つまり、このチョウは、本州では青森県北部にしかいないのである。だから、青森県を代表するチョウにカバイロシジミを推すのもうなずけるところだ。

 断崖にひっそりと生息しているこの小さなチョウが見たくて1986年8月、今別町に出かけた。チョウは食草のヒロハノクサフジの間を静かに飛び回っていた。色は地味だが、どことなく神秘的に感じた。カバイロシジミを見たのは、それが初めてだった。出会えて素朴に感動したのだった。

 それにしても、と思う。本州のカバイロシジミは、なぜ北海道を望む津軽半島と下北半島の海辺にだけ生息するのだろうか、と。そして思いは募る。縄文の昔、北海道から津軽海峡を渡ってきた丸木舟にカバイロシジミの卵がくっついてきたのだろうか、と。津軽半島、下北半島にカバイロシジミがいるということは、縄文の昔から、北海道と本州の交流があったことの証左になるのではないだろうか…。はたまた、もともと陸続きだったのに津軽海峡で分断されカバイロシジミが“泣き別れ”になったのだろうか…。

 ロマンは広がる。

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