あおもり昆虫記
スギタニルリシジミ

 1987年4月のこと。友人のYKさんに案内され、平賀町の丘陵地で初めてヒメギフチョウを見た。カタクリの花の蜜を吸っている姿をフィルムに収め満足したわたしは、欲ばりついでに「スギタニルリシジミも見たいなあ」と頼み込んだ。

 このチョウも名は知っていたが、わたしはそれまで見たことがなかった。早春にしか現れないこと、トチの木のあるところにしかいないこと−などから、このチョウを見る機会に恵まれなかった。と言うよりは、積極的に見つけよう、という気持ちをそれまで抱かなかった、と表現する方が正しいかもしれない。

 「ああ、いいよ」。YKさんは気軽に応じ、沢筋の小径にわたしを案内してくれた。一帯は、つい先だって雪が解けた、といった風情で、かん木の芽はまだ固いつぼみのまま。が、ところどころに咲いているカタクリ、愛嬌のある姿をしたコゴミが春を感じさせてくれる。

 「スギタニルリシジミは、地面に近いところをチラチラとハエのように飛ぶんだ」とYKさん。彼の説明が終わるか終わらないうちに1匹目が姿を現わした。なるほど低いところを飛んでいる。2匹目が現われた。今度はカタクリの花にとまった。時間をかけてゆっくり蜜を吸う。

 地面にはいつくばってカメラを向けるわたし。近くに腰をおろしのんびりたばこを吸うYKさん。静けさの中、カメラのシャッターを切る音だけが響くうららかな春のひととき…。

 スギタニルリシジミの幼虫はトチの花を食べて蛹になる。花が枯れ落ちないうちに急いで花穂を食べ急いで蛹になるという早わざぶり。が、成虫になるまでは逆にゆっくりだ。蛹のまま初夏、夏、秋、冬を経て翌春、およそ1年後に成虫になる。もっとも、春に羽化しないと困るのだ。幼虫のえさのトチの花が咲いていないからだ。自然はなんとうまくできていることか。

 帰り道、虫仲間の黒石市のSさんとすれちがった。

 「これからヒメギフチョウを見にいくんだ」

 「オレたち、いま見てきたところ」

 「じゃぁな」

 短い会話。が、心情は十二分に通じ合う。虫好きたちの一年が始まる。 

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