あおもり昆虫記
コツバメ

 北国に住む者にとって、一番嬉しい季節は春、と人は言う。へそ曲りを自称するわたしでも、やっぱり春だな、と思う。

 やわらかな日差し、春がすみ。そんな日、たまらなくなって野山に出かける。別にこれといった目的はない。ただなんとなく。そう、ただなんとなく歩くだけでいい。春独特のにおいを感じるだけでいい。そして、そこに虫がいれば、言うことなし、だ。

 いつのころからだろうか。春のチョウはコツバメ、とわたしはひとり勝手に決めている。羽の表が藍色、裏が鉄サビ色の小さなシジミチョウ。何の変てつもないチョウだが、毎春、軽快に飛び回っている姿を見ると「あ、やっぱり春だ」と妙に納得してしまう。「小燕」−名前も小粋だ。青い目を思わせる春一番の可愛い花が、オオイヌノフグリなどというとんでもない不粋な名をつけられているのとは大違いだ。

 1984年春、青森市の構内浄水場の近くを歩いていた。日の当たる緩い斜面。地面にはまだ枯れ葉が敷きつめられていた。斜面の中腹まで登った時、目の前を小さなチョウが、ビュッとよぎった。コツバメだ。「今年も顔を見せてくれたな、こいつ」と心の中で独り言を言っていたら、わたしの期待にこたえ?目の前のツクシにとまってくれた。

 と、コツバメは急に体の位置を換えた。たたんだ羽がツクシと直角になるように、つまり地面と平行になるような体勢をとった。わたしはすっかり興奮した。この体勢は何を意味しているのだろう。鉄サビ色の羽裏を太陽に当てて熱を吸収、体温を上げているのだろうか。それとも羽裏と枯れ葉を同化させ、保護色よろしく上から見る敵の目をごまかしているのだろうか−。

 その後、何かの本を読んだら、同じことが書かれていた。「何かに止まると、体を傾け、少しでも太陽光を浴びられるように羽裏を太陽に向ける努力をする」。春先のまだ日照が弱い時期に出現するから、体温を高めるため、このような行動をするのだろう。羽裏は錆色をしているから、熱吸収の効率はいいはずだ。驚くべき知恵だ。

 コツバメの信じられないような行動を初めて見た帰り、近くの同僚宅に立ち寄ったわたしは、いま見てきたことを、こと細かに熱っぽく説明した。だれかに教えなければ落ち着かないほど気持ちがたかぶっていた。

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シジミチョウの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

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