あおもり昆虫記
ゴイシシジミ

 ゴイシシジミ(碁石規)を見ると、なぜか白い靴下を連想する。ふかふかで暖かそうな毛糸の真っ白なロング・ソックス。だらしなく見える女子高校生のルーズ・ソックスではない。毛羽立った、見るからにきれいな靴下…。この小さなチョウの足を見ると、どうしても靴下を連想してしまう。

 余談が過ぎたが、白靴下蝶ことゴイシシジミの生態は実に風変わりだ。幼虫は葉っぱではなく、笹などにつくアブラムシを食べる。幼虫期間、すべて肉食で通すのは日本のチョウの中ではこのゴイシシジミだけだ。ムモンアカシジミなどゴイシシジミ同様、アブラムシを食べるチョウの幼虫がいる。しかし、ムモンアカシジミはアブラムシのほか、食樹の若葉も食べるため“半肉食・半菜食”だ。純肉食はゴイシシジミの幼虫だけなのだ。

 それだけでも特異なのに、なんと成虫(チョウ)になってからも食べ物のほとんどをアブラムシが分泌する蜜に頼っているのだ。そして母チョウは、ふ化した幼虫がすぐアブラムシにありつけるように(最初は蜜をなめ、次第にアブラムシを食べるようになる)アブラムシの群れの中に産卵するという徹底ぶり。子供思いの優しい母親だ。もっとも、考えてそうしているのではなく、本能というか、行動プログラムが組み込まれそれを“実行”しているだけの話なのだが…。ともあれ、このチョウの一生は、アブラムシと切っても切れない関係にあるのだ。

 記者時代、八戸市で行われた野生大麻一掃作戦を取材したことがある。初夏のことだった。大麻を探す県職員の後ろをついて歩いていたとき、杉林に隣接している笹藪に、もやもやしている何かが見えた。いったい何だろう、と思って近づいたら、そのもやもやは、ゴイシシジミの大集団だった。これには驚いた。笹に付着しているアブラムシが排泄する“蜜”に群がっていたのだった。

 笹の葉に止まって蜜を吸っているもの、その上をちらちら飛んでいるもの…。限られた空間に、それこそ無数のゴイシシジミがいた。それまで、単独活動をしているゴイシシジミばかり見てきたので、その数に圧倒され、意外性に圧倒され、しばらく口をあんぐりあけたままマヌケ顔で見続けた。

 ふと我にかえった。大麻撲滅隊の姿は視界から消えていた。取材はどうなるんだ。焦って一帯を走り回り、ようやく撲滅隊を見つけたときは、安堵で腰が抜ける思いだった。ゴイシシジミのおかげで、上司から大目玉をくらうところだった。以来、ゴイシシジミの大集団を見る機会はない。大集団を見たのは、後にも先にも、その1回だけだった。

 チョウの名に碁石を当てたのは、羽の裏を見ればよく分かる。が、英語ではこのチョウを「森のピエロ」という。羽の模様から、ピエロの派手な衣装を連想したのだろうか。それとも肉食という本性を隠し森の中を弱々しく飛ぶ姿を欧米人は、道化に見たてたのだろうか。

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シジミチョウの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

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