あおもり昆虫記
フチグロトゲエダシャク

 2年ほど前になるのだろうか。中年虫仲間との定例飲み会で、“蛾博士”のSさんが、小さな標本箱を持ってきた。これを肴に飲もう、というわけだ。青森県で採れる、フユシャク全種の標本だった。フユシャクは、晩秋から初冬にかけてと早春に現れる蛾の仲間。雄は羽があるが、雌には羽が無く、その風変わりな生態は、広く知られているところだ。

 とはいっても、県内にいるフユシャクの仲間全種の標本を見たのは、これが初めてだった。Sさんの展翅は芸術の域に達しており、それはそれは美しい見事な標本だった。そのSさん、わたくしを挑発?しながら「これ、いいでしょ! この蛾の生態写真を撮りたいでしょ! ふふふふふ」と笑いながら指差した。指の先にはフチグロトゲエダシャクの雄があった。体の大きさに似合わぬ、でかくて見事な触角に圧倒された。ツゲの櫛そのものだったのだ。

 「撮りたい、撮りたい、その蛾の写真撮りたい」とわたくしは逆上して言った(はずだ)。昨年の春、Sさんはわたくしの願いを聞き入れ、「では、フチグロの写真を撮りにいきましょう」と誘ってくれた。Sさんの旧友Mさんと3人で出掛けた先は旧金木町(現五所川原市)の岩木川堤防。何の変哲も無い場所だが、Sさんはここで以前、この蛾を採集したという。しかし、この日は晴れてはいたものの風が強く、空振り。1年を待たなければならなかった。

 そして2006年の4月中旬。またSさんから誘いがかかり、Mさんと3人で出掛けた。今度は昨年と行き先が違う。旧中里町(現中泊町)だ。青森県では名うての昆虫採集人Kさんが見つけたポイントだ。Kさんは、昆虫研究家として多くの人から認められている人なので、期待が持てる。

 何の変哲もない田んぼの農道がポイントだ。この日は薄曇りで、風が強く冷たいため、「ん〜、今年も駄目かあ…」と空振りを覚悟したが、蛾はすぐに現れた。といっても、それこそ矢のような速さで、目の前をビュッと横切り、すぐに視界から消える。が、Kさんのポイントだけあって、数はけっこういる。こうして撮ったのが、写真のフチグロトゲエダシャクだった。本当に見事な触角。標本で見たときとはまた違った感動があった。

 「こんなに雄がいるということは、きっと雌がいるに違いない」とSさんは、食草のノイバラ付近を中心に探したが、雌は見つからない。そのうち、3人とも寒さに耐えられなくなってきた。「昼食にして、そのあと、再び調査しよう」。ということで、ドライブイン2軒に入って昼食(成り行きで、わたくしは、それぞれの店で名物「しじみラーメン」を食べるハメに。つまり、連続2食を食べたということ)。再び、現場に足を運んだ。しかし、食前、あんなに飛んでいた雄が、冷え込んできたせいか1匹もいない。「あれだけ見たんだから、もう十分だろ。欲張るな。見たければ、来年また来いよ」と蛾に言われているようだった。

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