あおもり昆虫記
ギンイチモンジセセリ

 東奥日報社は1986年、「青森県の蝶たち」を発刊した。津軽昆虫同好会の菊池幸夫さんが、主に津軽地方に住む若いチョウ研究者たちをうまく束ね、優れたチョウの写真を集めることができた。

 解説文の執筆にも多くの若い研究者を起用した。彼らは、文章を書くのが慣れていないため、わたしは1985年12月の日曜日2回、菊池さん宅に行き、どっさり集まった原稿に朝から夕方まで目を通し、筆を入れた。こうしてできた「青森県の蝶たち」は優れた出来上がりとなった。あれから15年以上たつが、わたしは今でもこの本は、わが国のチョウ関係の出版物の中で、高いレベルを保ち続けている、と思っている。

 セセリチョウ科の記述で、彼らの文章に共通の言い回しがあるのに気付き、驚いてしまった。いわく、セセリチョウは「汚いチョウだ」「ガみたいなチョウだ」「好きになれないチョウだ」「さえないチョウだ」。いかにも憎々しげな表現。セセリチョウがチョウ愛好者たちに、こんなにも毛嫌いされているのか、とびっくりし菊池さんと顔を見合わせ苦笑、ため息をついたものだった。

 わたしは、あまり感情移入せず昆虫を広く浅く見ているから“セセリチョウ・アレルギー”は無い。中でもセセリチョウの仲間のひとつであるギンイチモンジセセリは大のお気に入りだ。

 セセリチョウは一般に胴が太く羽が短く、弾丸のようにビュッと飛ぶ。だが、ギンイチモンジ君は胴が細く、地面の近くをひらひら弱々しげに飛ぶ。羽表は黒褐色一色。後羽裏の銀色の一文字模様が、なんとも粋だ。ほかのセセリチョウとはあまりに違う飛び方に、ギンイチモンジ君は、セセリ一族の鬼子、もしくは落ちこぼれなのかな、と思ってもみたくなる。

 1980年ごろ、毎年6月ごろになると岩木山ろくに行き、ギンイチモンジ君を見るのが好きだった。足元をひらひらと頼り無げに飛ぶ姿を見ると「おい、頑張れ」と声の一つもかけたくなる。

 印象に残っているのは1970年代後半のある年、六ケ所村での取材を終え、野辺地町に帰る途中の山道でのこと。何の気なしにススキの原っぱに車を止め、下り立った。一瞬、目を疑った。ススキの群生地に数え切れないほど多くのギンイチモンジセセリが鈴成りになり羽を休めていたのだ。夕陽を受けてキラキラ輝く銀一文字模様。まさに幻想の世界がそこにあった。

>>写真はこちら

セセリチョウの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

HOME