あおもり昆虫記
ミヤマセセリ

 虫の好きな人は、チョウを見て春の訪れを実感する。もっとも、人によって春を実感するチョウがそれぞれ違うのは当然だ。

 青森県では多分、ヒメギフチョウが舞う姿を見て「ああ、今年もまた春が来たんだなあ」と思う人が一番多いに違いない。このほか、越冬から目が覚めたキタテハ、ヒオドシチョウ、クジャクチョウなどが、ぼろぼろの羽を広げ日光浴しているのを見て「うむ、春なのだ」としみじみ思う人もいるだろう。「いや、羽化したてのモンシロチョウこそ春の代表だ」「ルリシジミだ。これで決まりだ」「いやいや、コツバメさ」。そんな会話も聞こえてきそうだ。

 きりがないから、この辺でやめておく。このように、人の好みや感性は違う。ましてや、男と女の間柄になると…。

 話が脱線した。わたしの場合は、春のチョウはコツバメ、と勝手に決めている。

 だが、このミヤマセセリも捨てがたい。地味な色彩だが、間違いなく春を代表するチョウの一つといえる。小学生だったころから、春の人里に近い雑木林でミヤマセセリを見るのが楽しみだった。地面や枯れ葉、あるいは石の上で日光浴しているのを見ると「おっ、今年もいたのか。よしよし」とつい声を掛けたくなる。

 春だから、華やかな色でもよさそうなものだが、地味な色彩にはそれなりの理由がありそうだ。野生生物の姿、行動には無意味なものが皆無だからだ。

 まだ葉を付けていない雑木林。地面は枯れ葉で覆われている。茶色一色の世界。のんびり歩いていると、足元からチョウがいきなり飛び立ち驚かされることがしばしばある。ミヤマセセリだ。飛び立つまで、まったくチョウの存在に気づかない。枯れ葉の色にチョウの姿がすっかり溶け込み“敵”の目をあざむいているのだ。

 緑がないこの時季、派手な色をしていると、鳥などにすぐ見つかり食べられてしまうから、地味な色をしている訳だ。いや、その表現は正しくない。地味な色をしているから、太古の昔から今まで種を維持してきている、と考えたほうがよい。自然の“知恵”である。

 4−5月ごろ産みつけられたミヤマセセリの卵は、間もなく孵化、幼虫はコナラなどのブナ科植物の葉を食べ、晩秋にかけてゆっくり成長し、幼虫のままま越冬する。年に1回しか発生しないのチョウの中では最も幼虫期間の長い。1年のほとんどを幼虫で過ごし、春になればあわてて蛹になり、あわてて羽化する(成虫になる)。実に変わったチョウだ。でも、これもナニカの理由があってのことだろう。風変わりに見えるが、このチョウにとっては当たり前のことなのだ。

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