あおもり昆虫記
ヒメウラナミジャノメ

 あなたは、どのチョウが一番好きですか、とたずねられたら、わたしはためらわず「ヒメウラナミジャノメでしょうね」と答えるに違いない。

 「あんな冴えないチョウを好きだなんて。わからないなぁ」とあきれられるかもしれない。でも、好きなものは好きなんだから、しょうがない。

 このチョウを好きになったのは、小学生の時の印象が強いため、と思う。梅雨どき、さすがのアウトドア昆虫大好き少年も家に閉じ込もりがちになる。雨がひと休みすれば、待ちかねたかのように外に飛び出したものだった。そんな時、家の周りのヤブのあたりを飛んでいたのがこのチョウだった。虫を見たくてたまらない時に目の前に現れてくれるから好きになるのも当然だった。

 そして上下にツン、ツンとはねるように飛ぶ姿が、どうしようもなく可愛い、と思ったものだ。いま、このチョウを見ると、子供の時のときめきが鮮かに蘇り、やっぱり「好きだなぁ」と思ってしまう。

 昔は家の近く、いまは都市近郊でよく見られるチョウだが2002年6月、白神山地奥赤石川林道を歩いていたとき、このチョウが多数、ツンツン飛んでいたのを見たときは驚いた。こんな山中にもいるのか、と。そして、単調な林道歩きをして疲れ果てているとき好きなチョウに巡り会い、元気をもらったような気がした。が、このチョウの幼虫の食草はススキなど。ススキが生育し、温度条件が合っていれば、このチョウがいてもまったく不思議ではないのだ。

 このチョウの学名はイプティマ・アルグスという。アルグスとは、ギリシャ神話に登場する目玉が100個もある怪人。やきもちやきの女神ヘーラーの言いつけで浮気な夫ゼウスのお相手イオの見張り役を仰せつかり、あげくに勇者ヘルメスに退治されてしまうという冴えない脇役だ。羽の裏の数個の目玉模様を100目に見たて、この学名をつけたものだ。余談になるが、いじめられたイオが流した涙が蝶の羽に落ち、クジャクチョウの模様になった、という伝説がある。

 このチョウの目玉模様は普通5個だが、時に6〜7個あるものも出現する。チョウの模様は種ごとに決まっているものだが、このように同一の種でありながら模様に変化があるチョウは珍しく、それだけ、このチョウの種が安定していないことを意味する。種が不安定ということは、進化の途上にある、ということだ。

 普通種でありながら謎を秘めている−。わたしはますますこのチョウが好きになった。

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