あおもり昆虫記
ミヤマスカシクロバ

 全国各地で次から次へと凶悪な事件が起こっている。最初のころは、日本国中で大騒ぎするが、不思議なことにだんだん慣れてくる。そして、A事件とB事件とC事件がごちゃまぜになってしまい、何がなんだか分からなくなる。そんな気持ちになるのは、実は大変怖いことなのだが、そしてそんな気持ちになっては決していけないのだが、なにしろ日本人は熱しやすくさめやすい。

 虫の世界でも似たようなことを感じることがある。

 冬から春へ。眠りからさめた虫たちが動き始めると、虫にしばらく会っていなかったわたしは落ち着かなくなる。まだ虫の数は少ないが、あちこち駆け回り、“物珍しさ”からやっためったらと写真を撮りまくる。だが、若葉の季節になり虫の数がドーンと増えると、注意力が散漫になりがちになる。つまり、春先の全被写体なんでもかんでもバシヤバシヤ激写が、季節が進むと急速にえり好み化していく。

 しかし、好奇心百パーセントで迫る春先の激写方式は、なかなかいいものだ。夏にはおそらく目を向けることもないだろう虫たちの姿も見ることができ、写真を撮ることができるからだ。このオオスカシクロバもその一つ。夏だったら、きちんと写真を撮っていた虫だったろうか…。

 一見、トビケラのように見えるが、実はガ。東北北部から北海道にかけて分布する北方系のガで、多くのガが夜飛び回るなかにあって、昼に行動する。

 このガの仲間は、赤い模様など派手なものが多いが、これは半透明の羽に黒い鱗粉を薄くまぶしてある。地味だがなかなかシックないで立ち。春先の弱い太陽光の中、行動するためには熱を効率よく受ける必要があり、それで黒っぼいのかもしれない。神様がくれた魔法の衣装かもしれない。そう考えると、この目立たないガは、このうえなくいとおしく思えてくる。

 黒一色な装いだが、接写レンズをつけたカメラのファインダーをのぞくと、花の蜜を求める白い口先がチロチロと妙になまめかしく動くのが見える。黒い羽に白い口先−。意外な姿を観察できたのも、春先だからこそ、と思ったりも。

 春一番に現れ、あっという間に姿を消すオオスカシクロバ。春のはかない命−いわゆるスプリング・エフエメラルは、青森県では専売特許のようにヒメギフチョウの代名詞になっているが、昆虫研究家のTKさんは「オオスカシクロバもスプリング・エフエメラルといえるでしょう」。わたしもつくづくそう思う。

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