あおもり昆虫記
エダキオビヒメハマキ

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2005年6月下旬、青森市東部の森で、発電機による明かりで虫たちをおびき寄せる虫友たち。エダキオビヒメハマキは、この場所で採集された。
 蛾を採集するとき、もっとも有効な手段は「灯火採集」だ。蛾が、光に集まるという習性を利用し、光に蛾をおびき寄せ、居ながらにして採集しよう、という実に効率的な採集方法だ。夜行性の蛾でも光に来なかったり、あるいは昼行性の蛾もあるなど、もちろん例外はあるものの、圧倒的に多くの蛾は光に集まる。

 問題は、電気のコンセントが無い場所で、どうやって光を発生させるか、だ。野外採集ではほとんどの場所で電気が使えず、光は自力で発生させなければならない。昔は、光源にカーバイトを使った。カーバイトに水をたらすと、アセチレンガスが発生、これに火をつけて明かりにする、というわけだ。

 水をたらす量を調節すれば、光量や光る時間を調節できる、という原始的な構造ながら、ずいぶん重宝されてきた。わたくしが高校時代に在籍した生物部にも、このアセチレンガスセットがあり、何回か、夜間採集をしたものだった。この、ガスが発生するとき、化学反応で異臭が発生する。はっきり言って臭い。このにおいは、宵宮や縁日の出店のにおいと似ていた。なんのことはない、出店は昔、アセチレンガスを使っていたのだ。というよりも、出店で使うものを、昆虫少年たちは灯火採集に転用したのだった。

 さて、いまは、アセチレンガスなどという、弱い光は使わない。発電機を使う。ドドドドドドという発電機が動いている騒音の中での採集となる。しかし、発電機と電灯だけあっても、効率的な採集はできない。光を反射・拡散させるとともに、飛来した蛾を止まらせる白布が必要だ。しかし、白布だけあっても駄目だ。白布をきちんと張る、“スタンド”が必要だ。さらに、白布にとまらず、下の地面でうろうろする蛾もいる。これらを見つけやすくするため、下に敷くシートが必要だ。

 ということで、発電機、電灯、白布、スタンド、シートの5つが野外移動型灯火採集(今のコトバで言うならば、モバイル灯火採集)の必須アイテムとなる。この、白布とスタンドが、蛾歴何十年の佐藤博さん(青森市)の手作りによる。長年の経験をもとに何回も改良を加えて完成させた白布とスタンドの見事さは感動的ですらある。コトバでの表現は不能のため、ここでは、いかに素晴らしい布とスタンドか、という雰囲気だけをお伝えする。

 2005年、このモバイル灯火採集セットを車に積んで、夜ともなればあちこちに出没した。もっとも佐藤さんと仲間のMさんは昔から出没していたが、わたくしが参戦したのは2005年から。佐藤さんとMさんは、野次馬からだいぶ好奇の眼で見られてきたというが、今では慣れっこになり、たまに現れる野次馬を適当にあしらっている。さらに2005年からは「生物多様性保全対策検討調査」という、もっともらしい小看板を製作。これを灯火採集セットに引っ掛け、好奇および不審の目をかわす手だてとしている。「ちゃんと生物調査しているのです。けっしてあやしい者ではございません」と自己PRしているわけだ。

 さて、2005年に灯火採集した好ポイントの1つが、青森市東部の、野内川上流の広葉樹の森だった。ここは、植物層が複雑で、見るからに多様な生物がいるのが分かる。昼の昆虫観察でもよく足を運んできた。ここで灯火採集をやったら、多くの蛾やその他の虫が訪れたため、わたしたちはここを要所に位置づけてきた。

 2005年、この場所で多くの蛾を撮影・採集してきたが、6月26日に採集したものの中に、これまで日本で記録されていない蛾が含まれていたのだった。当然、佐藤さんは大喜びで、エダキオビヒメハマキと名づけた。この蛾は、ヨーロッパ、北アフリカからトルコ、カザフスタン、シベリヤを経て、中国、朝鮮半島、極東ロシア各地まで分布し、東端はカムチャッカに及ぶ蛾で、幼虫は各種広葉樹の樹皮下に食い入るという。

 2006年も、このポイントで灯火採集をすることになっている。エダキオビヒメハマキは、再びやってくるのだろうか。あるいは、エダキオビヒメハマキ以外の、新しい「日本初記録種」を採集できるかもしれない。その確率は高いはずだ。この野外での“モバイル灯火採集”は、楽しくてしょうがない。

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